近年、日本社会には大きな変化が起きている。それは、権力の中枢が「名家・名門」に回帰していることだ。政界では安倍政権の要職を「政治家一族」で占め、財界では大企業のトップが次々、「創業家一族」に戻っている。いったい何が起きているのか──。
政界の3大名門といえば、「安倍(岸)家」、「麻生家」、そして「鳩山家」だ。安倍晋三・首相と麻生太郎・副総理が縁戚にあたることは、世間にはなじみがなくても政界ではよく知られている。だが、安倍政権を支える岸田文雄・外相や宮沢洋一・前経産相(現自民党税調会長)まで結ばれ、実は政敵の鳩山家とも親戚だと聞けば驚く人は少なくないはずだ。
安倍家と麻生家の両家を軸に系図を辿ると、吉田茂、鳩山一郎をはじめ、岸信介、池田勇人、佐藤栄作、三木武夫、鈴木善幸、宮沢喜一、細川護煕、橋本龍太郎、鳩山由紀夫と、戦後の総理大臣のうち13人が繋がり、まさに日本政界のエスタブリッシュメント(支配階級)を構成する閨閥が構成されている。
この閨閥は皇室ともつながり、住友財閥、森コンツェルン(昭和電工)、日産コンツェルン(日産自動車)など多くの財界人、外交官、高級官僚、軍人を輩出してきたのだ。
◆吉田茂で繋がる
まず両家のルーツから辿っていこう。安倍家は平安時代末、「前九年の役」で源頼義に敗れた安倍貞任の末裔を名乗っており、安倍首相自身、岩手県を遊説した際、「安倍貞任の末裔が私となっている。ルーツは岩手県。その岩手県に帰ってきた」と演説したことがある。安倍家は長州の大庄屋(造り酒屋)を務めた家系だが、華麗なる閨閥を誇るのは岸信介、佐藤栄作の兄弟宰相を生んだ母方の佐藤・岸家だ。
岸家は長州藩の郡代官の家柄、佐藤家の祖・信寛は吉田松陰の兵学の師で明治維新後は島根県令(知事)などを務めた。両家は婚姻や養子縁組を繰り返して結びつき、戦前、「満州国の二キ三スケ」と呼ばれた岸信介、松岡洋右(満鉄総裁、外相)、鮎川義介(満州重工業=日産コンツェルン総帥)の2人の“スケ”は婚姻で結ばれている(二キは東条英機、星野直樹)。さらに佐藤栄作の次男・信二の夫人を通じて美智子皇后の実家の正田家や住友本家、森コンツェルン、三木武夫に辿ることができる。
佐藤・岸家と麻生家の繋がりは、岸信介の従兄弟の夫人が吉田茂の長女で、すなわち麻生副総理の伯母である。