軟骨は血流がないので、組織修復能力が乏しく、一度損傷すると再生は難しいとされていた。軟骨がすり減り、変形してしまった重症の変形性膝関節症では、人工関節に置換して痛みを取り、足のアライメント(骨格配列)を矯正するという治療が行なわれる。
一方、スポーツや事故などで、膝の軟骨の一部が欠けることがある。これが外傷性軟骨損傷で、軟骨が欠ける以外は、周囲の軟骨と骨には異常が少ないものをいう。治療法は大きくわけて2通りある。
骨軟骨移植術と自家培養軟骨移植術だ。骨軟骨移植術は体重のかからない膝の部分の軟骨と骨の一部を直径5~10ミリの円柱状に採取し、欠損部分を同じ円柱状にくりぬき移植する。この方法は移植部分が硬くなったり、できた軟骨が正常の硝子軟骨よりも線維に近いという問題があった。
北里研究所病院人工関節・軟骨移植センターの月村泰規センター長に話を聞いた。
「整形外科分野でも再生治療の研究が行なわれてきました。そこで広島大学で開発されたのが患者さんの膝から軟骨を採取し、無菌室で培養して欠損した部分に留置して生着を促す自家培養軟骨移植術です。欠損した範囲が4以上で、周囲の軟骨や骨が正常な場合に適用できる治療です」
治療にあたり、患者の膝軟骨を関節鏡で0.4グラム採取し、専用の施設の無菌室で4週間培養する。単に培養しただけでは平べったい組織になるため、アテロコラーゲン(コラーゲンの一種)と混ぜて培養することで、3次元的に培養が可能だ。
4週間で500円玉3つ程度のぷよぷよしたゼリー状の培養組織ができるので、これを膝関節を切開して欠損した場所に移植する。移植した自家培養軟骨がズレたり、流れたりしないように、脛骨から取った骨膜で蓋をし、周囲を縫っておく。