日本の市区町村の数は全部で1873(政令指定都市の行政区を含む)。北海道から沖縄まで、人口、面積、自然環境などまさに千差万別だ。そのうち、最も財政に余裕がある(お金がある)村とを、ノンフィクションライターの前川仁之氏が訪ねた。
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日本一豊かな村、愛知県飛島村は、名古屋駅から電車とバスを乗り継いで約40分。交通の便が良いとは言えない立地にある、人口約4500人の村だ。
財政力指数(1.0であれば収支バランスが取れていることを示し、1.0を上回ると、国から自治体に与えられる「地方交付税交付金」の原則支給対象外となる)は毎年連続で「2」を超え、ダントツで日本一。
90歳のお年寄りには20万円、95歳には50万円、100歳には100万円の長寿奉祝金を渡している、リッチな村だという。そんなにリッチなら、総身ににじみ出た余裕が五感に訴えてくるに違いないと期待しつつ、近鉄蟹江駅前でタクシーを拾う。次のバスには30分もあるのだ。
蟹江川、日光川、そして善太川、と伊勢湾に通じる水路を渡り、タクシーは飛島村に入った。田んぼと畑ばかりが広がる平地を走ってゆくとやがて左手300mほど向こうに巨大な建物が一つ二つ三つ固まっているのが見えてくる。
「あれが役場です。隣が飛島学園で」
飛島学園とは、小・中一貫の村立学校だ。村の豊かな財力は教育にも発揮されており、この村では毎年中学2年の生徒たち全員をアメリカに派遣している。生徒たちは姉妹都市であるカリフォルニア州リオビスタ市にホームステイし、シアトル、サクラメント、サンフランシスコといった西海岸の都市を巡り、学校訪問や工場見学などで見識を広めるのだ。費用は村持ちだという。
役場の入口の円柱には伊勢湾台風の時の到達水位が刻まれていた。1.95m。高い。伊勢湾台風と言えば今からもう60年近く前の災害だ。それがこの堂々たる役場の玄関先にあるということは、村の歴史の中で伊勢湾台風が占める位置を示しているのだろう。
役場に入り、取材に来た旨を告げると「取材は受けません」と断られた。
役人への取材はあきらめ、一般村民を探すことにした。タクシーからちらりと見えた竹之郷神社に向かって歩いていると、初老の男性に出会った。取材の主旨を話すと「それなら役場に行かれるといい」と言う。役場で断られたいきさつを話すと、そうかあ、となにやら納得した様子。
「以前もマツコ・デラックスの番組で取り上げられましてな。そういう、茶化すような番組でもなんでも村長さんが取材受けてたから、議員さんから怒られたみたいですよ」