夏休みに入り、子供たちの頭を悩ませる自由研究や工作の宿題。ところが、近年は過剰ともいえる手助けのおかげか、9月間近になって慌てる心配もなくなった。
7月23日まで東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれている「宿題・自由研究大作戦」──。企業や官公庁など38の団体がブースを構え、自由研究のテーマや“お助けキット”などを提供している。洗剤の効果実験、粘土工作、手作り味噌キット……。ここにさえ来れば、親がサポートする手間も省けると、オープン前には2000人以上の親子連れが行列を作った。
もっとも、同イベントは「少子化が進む中で、早い年齢のうちから自社商品のファンになってもらい、人材難が深刻な将来は就職でも興味を持ってくれたら嬉しい」(出展メーカー関係者)という企業側の思惑も見え隠れする。
だが、自由研究で苦労した思い出のある親世代にとっては、複雑な心境だろう。
「私たちが子供のころの自由研究といったら、蚊がどんな所や気温で発生しやすいのかを調べたり、工作でも自分で牛乳パックや割りばしなどを集めてきて立体模型を作ったり、観察場所や材料選びから悩んで自分なりに工夫して作品を仕上げていました。
それが今の子供は、書店や文具店などで市販されているキットの中からやりたいテーマを選んでガイド通りにやれば宿題が終わってしまう。実験結果や観察記録をつけるノートも、空欄を埋めればそのまま提出できるようになっています。便利になったとは思いますが、あまり面白味や達成感はありませんね」(40代主婦)
確かに、この時期になると店には特設コーナーが設けられ、〈夏休みの自由研究にそのまま使える!〉といった謳い文句のキットが多数売られている。
例えば、アリの巣観察キットを見てみると、アリを傷つけずに捕まえられるカプセル、巣作りがよく見えるハウス、巣を書き写せる透明シート、そして仕上げのまとめができる観察シートまでセットになっており、まさに至れり尽くせり。
しかし、こうした現状に「自由研究の“自由”がどこにあるのか分からなくなっている」と苦言を呈するのは、安田教育研究所代表の安田理氏だ。
「本来、自由研究で一番大切なポイントは、まず何を調べたいかを子供に考えさせることにあります。普段の生活や夏休み中の旅行で、疑問に思ったこと、興味を持ったテーマを子供自身が見つけ、『この場合だったらどうなるのか』と試行錯誤を重ねる。そして、完成度が悪くてもいいからオリジナリティーのある研究結果を導き出すことで考察力が磨かれていくのです。
それが、売られているキットで済ませてしまえば、調べる内容や範囲が決まっているので、研究というよりも作業に近くなってしまいます」