2630人の村民のうち35%が高齢者という秋田県東成瀬村。総面積204平方キロメートルのうち93%が山林を占める自然豊かなこの村にはスーパーがなく、コンビニが1軒あるだけだ。しかし今、この村を訪問する学校関係者が後を絶たない。昨年の訪問者はすでに553人を数えた。
国内はもちろんのこと、韓国やモンゴル、遠くはペルーなどからわざわざこの村にやってくるのだという。その目的は、ズバリ、子供たちの学力を伸ばすことだ。
2007年、43年ぶりに再開された文科省による「全国学力テスト」で、秋田県は8年連続1位。東成瀬村はその秋田県の中でもトップクラスの学力を誇ることから、国内外から注目を集めている。
1956年、戦後初めて実施された全国一斉学力調査で、小学生は国語・算数ともに最下位の成績だった秋田。さらに今、学校崩壊が叫ばれ、「塾歴社会」などという言葉が飛び出すほど、学力向上に塾は欠かせない社会になっているのに、この村に学習塾は1つもない。
そんな東成瀬村がなぜ日本一の学力を誇るのか? 記者は現地へ向かった。
東京からおよそ5時間。新幹線と在来線、レンタカーを乗り継いだところに東成瀬村はあった。以前は、村内には小学校中学校それぞれ複数あったが、統廃合をし、今では東成瀬小学校と東成瀬中学校の1校ずつしかない。
東成瀬小学校は全校児童100人。各学年1クラスずつで、教職員数は16人。保護者世帯数は75世帯で、保護者の9割以上が共働き、約7割が3世代同居という。
小学校に足を踏み入れた記者をまず出迎えてくれたのは、全校児童の顔写真つきの将来の夢。1年生などの低学年は“けいさつかん”“ほぼさん”など職業だけが明記されているが、5、6年生の高学年は、「なぜそうなりたいのか」という理由まできちんと書かれている。
「お笑い芸人になりたい」と書いていた5年生のある男子児童はその理由を「みんなを笑わせて、幸せになってほしいからです」と書いている。
同校の藤原寿教頭が言う。