夏の食卓を涼しくするそうめん、その食べ方はつゆと薬味だけでいただくものとは限らない。全国ではさまざまな調理法が、意外な地域で開発されていた。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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夏といえばそうめんだ。冷たいつゆに、ねぎ、しょうが、みょうがなどの薬味を散らす。そこにきりりと冷水で締めた麺をちょんと浸し、ちゅるんとすする。暑い日でも涼が取れ、心地いいのどごしから、つゆの汁ハネまでもいかにも夏らしい。
しかしものの本から、昔のそうめん事情をひもといてみると、意外なことがわかる。大正~昭和初期の全国各地域の食生活を聞き書きした農文協の『日本の食生活全集』に、「そうめん」という記述自体は北海道から沖縄まで登場する。記述が多いのは、圧倒的に関西以西だ。
意外なことに名産地として知られる、奈良県桜井市(三輪そうめん)や、兵庫県たつの市(播州そうめん)よりも、四国、九州といった地域が多く、一般的な「そうめん」とは異なる調理法も数多く登場する。前出の『日本の食生活全集』全50巻から、献立名に「そうめん」とついた品名の数で比較してみた。結果、上位3県の顔ぶれは、意外や意外……。
第一位 沖縄県 11品
今も常食されている「そーみんちゃんぷるー」といった一般的なメニューのほか、「揚げぞーみん」、「かぼちゃとそうめんの味噌汁」など幅広く使われていたことがわかる。「そーみんぷっとぅるー」という耳慣れない呼称のメニューもあるが、「ぷっとぅるー」とはでん粉由来の素材を油で炒めたもの。これも地域によって作り方が異なる。本島の那覇あたりでは、ラードでそうめんとネギを炒め、塩で味付けするものだが、宮古島では「いわしの缶詰か煮干しだしを入れて味噌味にした焼きそうめん」となる。
第二位 長崎県 8品
島原そうめんの産地でもある長崎では、そうめん文化は深く根づいている。寛永14(1637)年の島原の乱の後、小豆島から移住してきた人たちを中心にそうめんづくりが始められたのがその端緒だという。干潟で取れる貝の出汁で煮込んだ「あげまきぞうめん」のほか、煮干しやクジラを出汁にして煮付けたかぼちゃにそうめんを入れて煮込んだ「ぶなぞうめん」なども。ちなみに「ぶな」とはかぼちゃのことを指すが、長崎では「ぼぶら」とも呼ばれ、「ぼぶらぞうめん」という記述も確認できる。そのほか、鍋に沸かした湯でぐつぐつ煮えたそうめんをめいめいが取り、生醤油やゆず胡椒で食べる「地獄ぞうめん」など、現在も地元に受け継がれる品も多い。
第三位 徳島県 7品
徳島のそうめんは汁物である。一般的な「そうめん」「冷やしそうめん」「きゅうりとそうめんの味噌汁」「そうめんとなすの味噌汁」というように夏場に実をつける野菜とともに味噌汁の具として使う品が目につくが、「そうめんのふしの汁」のように正月料理に登場することもあったという。