英国が国民投票によりEU離脱を決めたとき、日本での報道は、これで英国は永遠にEUから離れるだろうという論調だった。新刊『世界史としての日本史』(小学館新書)で初対談した半藤一利氏と出口治明氏は、異なる視点から英国のEU離脱をみている。EUと英国は今後、どうなってゆくのかについて両氏が語りあった。
出口:英国のEU離脱についても、日本人の受け止め方には疑問を感じます。国民投票の結果が出たとき、僕は「10年後、連合王国は何事もなかったかのようにEUのメンバーに戻っているような気がする」とツイートしました。歴史を見ると、大陸から離れた英国の繁栄はありえないからです。
半藤:それはどういうことでしょう?
出口:わかりやすい例でいえば、ナポレオンが英国を攻めるとき何をしたかというと、「大陸封鎖令」を出して交易ができないようにした。第一次世界大戦時のドイツは、「無制限潜水艦作戦」で、英商船を沈めています。英国は海の国で、大陸との交易が生命線なので離れられないのです。
半藤:なるほど。
出口:もう一つの理由は、離脱を選んだのは高齢者が多く若い人は残留を選んでいるので、10年も経つと高齢者がいなくなって……。
半藤:賛否入れ替わると。高齢者のなかには、第二次大戦の前にナチス・ドイツが強くなりすぎて、悲惨な戦争に突入していったという記憶があるので、ドイツ一強のEUに飲み込まれることを恐れたのかもしれませんね。
出口:EUはドイツとフランスが核ですね。EUが誕生したときに僕が驚いたのは、100年の間に3回も戦争をした独仏が手を組んだことです。ドゴール仏大統領とアデナウアー西独首相は、「大陸のなかで殺し合いをしても誰も得しない」と、EUの枠組みを作った。独仏政府は、お互いの閣議に相手国の大蔵大臣を参加させるまでつながりを深くしています。