映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』では、普段は一人の役者への深掘りインタビューを通して得られた言葉をお届けしている。今回は、特別編として草刈正雄、夏八木勲、平幹二郎、仲代達矢、加藤武、山本圭らの言葉から、若手時代のエピソードをお届けする。
* * *
当然のことではあるが、名優として最初から完成されていた者など、いやしない。先週まで登場していた佐藤浩市もそうであったように、ベテランたちの多くが、若手時代に監督や先輩たちから現場で怒鳴られて指導されながら、それを糧に成長してきた。今回は特別編として、役者たちが若手時代に怒られたエピソードを紹介していく。
たとえば、現在は大河ドラマ『真田丸』で縦横無尽の活躍をみせる草刈正雄は、本格的な映画デビュー作となった『卑弥呼』での篠田正浩監督とのことを、次のように振り返っている。
「まったく監督に動かされるままやっていました。頭がガチガチで。アテレコの時は台詞が上手く言えず、よく怒られました」
草刈の親友でもあった夏八木勲もまた、デビュー作『骨までしゃぶる』の撮影現場で加藤泰監督に絞られている。
「現場では監督の言われるままやりました。でも、走ったりする動きのあるシーンならいいんですが、桜町さん(弘子、主演女優)とやりとりするような芝居は監督の思うように出来ないんですよ。『はい、もう一度』って何度もNGを出されました。スタッフの人たちにも『ああ、夏八木のシーンか。午前は仕事にならんぞ』とよく呆れられていましてね。昼休みにみんなが飯に行っている間も、やりとりの稽古をしていました」
できなくて怒られる場合もあれば、やり過ぎて怒られる場合もある。平幹二朗は後者だった。俳優座の公演『ハムレット』で仲代達矢扮する主人公の親友役を演じた際のことだ。
「僕には台詞がありませんでした。それで自分なりに役を一生懸命作ろうとしまして。時々立ち止まったり、考え込んだりやっていたら、千田さん(是也、俳優座の主宰)に『お前は犬のようにただ付いて歩きゃいいんだ』と言われまして」