7月中旬に報じられた天皇陛下「生前退位のご意向」により、改めて注目された皇室典範の改正問題。同法を巡っては、この10年ほど議論が進まず先送りされたままのテーマがもうひとつある。「今後の皇位継承で女系を容認するかどうか」だ。
皇室典範の第一条には「【資格】皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と書かれている。その「皇統の存続」が危ぶまれて久しい。國學院大學名誉教授・大原康男氏が12年前の議論を振り返る。
「2004年末、当時の小泉純一郎首相が私的諮問機関『皇室典範に関する有識者会議』を設けた際、私も参加しました。主たるテーマは、女性天皇の導入や女系の皇族への皇位継承資格の拡大についてでした」
当時は皇太子家と秋篠宮家に男子がおらず、やがて皇位継承者がいなくなるという危機感があった。そこで小泉政権は1年余りの検討を経て06年、通常国会での皇室典範改正を目指したが、同年2月、秋篠宮妃のご懐妊報道により、改正論議が中断。悠仁親王の誕生により、議論は白紙に戻された。
しかし、それで皇統存続の危機が去ったわけではない。悠仁親王の後、皇室典範の定める通りに「男系男子」が続くかどうかは未知数だ。そのため、識者の間でも「女性天皇」「女系」を認めるべきだとする意見が根強くあり、「男系維持」を主張する側と割れている。京都産業大学名誉教授の所功氏が語る。
「この10年余り繰り返されてきた、男系か女系かという分け方が誤解を生じさせ対立を増幅させてきた側面があります。大事なことは、古代以来の皇統が続くかどうか。その皇統には男系もあれば女系もある。男系女系という分け方は明治22年(1889)制定の旧皇室典範により出現したもので、それ以来『男系男子』という言葉が一人歩きをしている。皇統は男系で続いてきたが、男帝だけでなく女帝も8名おられたことをふまえて議論すべきです」