いまや日本人の平均寿命は83.7歳を記録し、世界有数の長寿国となった。4人に1人が65歳以上という超高齢化が進む中、厚生労働省は「健康寿命」のさらなる延伸を掲げ、生活習慣病の予防を促す数値目標を事細かに定めている。
だが、「ひたすら長生きすることだけが幸せなのか」と疑問を呈するのは、『「健康第一」は間違っている』著者で、武蔵国分寺公園クリニック院長の名郷直樹氏だ。医師が提唱する“健康を目指さない生き方”とは何なのか。その極意を聞いた。
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──現役の医者が「健康を目指すな」というのは、かなりセンセーショナルな指摘に聞こえます。
名郷:いまの世の中は年齢に関係なく、限りない健康欲の刺激と「死なないための医療」によって、むしろ不健康な人が増えているというのが私の見方です。こう話すと、医者が仕事を放棄していると思われるかもしれませんが、決してそうではありません。
人には必ず寿命があり、日本人の生存曲線で見ると男女とも70歳を過ぎると急激に死亡者数が増えていきます。そして、これだけ医療が進歩しているにもかかわらず、例えば75歳以上の平均寿命に限ると、1900年と1980年の平均寿命はさほど変わらない。つまり、高齢者に対しては、どんなに医療の力をもってしても寿命には抗えないのです。
──しかし、近年は平均寿命が延びることによって、厚労省も推進している健康寿命(日常的に介護を受けずに自立した生活ができる期間)も延びているのでは?
名郷:確かに健康寿命もわずかに長くなる傾向にありますが、平均寿命から健康寿命を引いた「日常生活に制限のある期間」も同時に延びているので、みなが健康とはいえません。長生きをしても大きな病気を抱えたり、寝たきりになったりして苦しい思いをしている人も多くなるのです。
高齢者になってなお健康を追求して、あらゆる医療を受けたり、食事を制限して好きなお酒やたばこも止めたりすることに何の意味があるのでしょうか。
よく70歳を過ぎても高血圧にならないよう、「食事は○○を食べたほうがいい」とか「1日○分運動したほうがいい」など、何から何まで健康に寄り過ぎていますよね。もちろん脳卒中や心筋梗塞といった合併症を起こす要因のひとつとして高血圧が挙げられますが、それだけの問題ではありません。むしろ高齢者になってからの血圧数値は、生き死にとはあまり関係がないのです。