戦後最大の殺人事件が起こってしまった。7月26日、神奈川県相模原市緑区にある知的障がい者などが入居する「県立津久井やまゆり園」に、元職員の植松聖容疑者(26才)が乱入し、入居者19人を殺害し、職員2人を含む26人に重軽傷をおわせた。
この事件を契機に浮き彫りになったのは、日本の障がい者施設の問題点だ。そして、そこには日本特有のシステムも関係している。
事件のあった「県立津久井やまゆり園」は、相模湖近くの自然豊かな地域にある。神奈川県が1964年に設置し、2005年から規制緩和で民営化。その後は社会福祉法人「かながわ共同会」が運営していた。その敷地面積は3万890平方メートル。2階建ての居住棟や管理棟、グラウンドなどを備えている。
食事、入浴、排せつなどの介助が必要な介護支援の必要度が6段階のうち、4~6の日常的に介護を必要とする重い知的障害を持つ障害者が入所していて、入所定員は、長期150人、短期10人という大規模施設だ。
全国にはこれよりも規模が大きく300人前後が暮らす施設も存在するが、入所者をまとめて管理するのは、先進国では日本だけだと、精神衛生福祉士の藤井克徳さんは言う。
「スウェーデンやドイツなどの北部・中部ヨーロッパでは、基本的に地域で働く場を得て、5人程度のグループホームで暮らすシステムに移行しています。日本はまだまだ施設収容主義で、やまゆり園にも30年入所している人が32人と聞きます。入所の超長期化も日本独特の現象です」
早稲田大学文化構想学部で社会福祉学・障害学が専門の岡部耕典教授が感じる世間の冷たさは、日本が障害者とともに生きる社会とは決していえないことと起因しているのだ。
一方で「やまゆり園」では働く職員の給与の低さも指摘されている。時給は神奈川県が定める最低賃金と同じ、905円だったと伝えられた。
保育士や介護士の過酷な労働現場はこれまで何度も報じられてきたが、やまゆり園のような社会福祉施設で働く人たちのことはあまり伝えられてきていない。この事実もまた、日本があえて障害者から目を背けてきたからに他ならないのではないだろうか。
同園の職員は160人以上いたが、夜間は職員が減る。20人いるユニット(グループ)を2人で見なければならないこともあって、疲弊している職員もいたという。
「入所者が重い病気を抱えているのはわかりますが、パニックを起こして暴言を吐かれることもたびたび。私に言っているのではない、とわかっていてもやっぱりつらいし怖い。ときには職員が性的暴行の対象になることもあって、体力的にも精神的にもキツイ仕事でした」(ある社会福祉施設の元職員)
藤井さんは「この分野にも市場原理の考え方や規制緩和が影を落とし、正規職員が大幅に減り、他の職種よりも賃金があまりにも低い」と語る。