2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月であることを自覚している医師・僧侶の田中雅博氏による『週刊ポスト』での連載 「いのちの苦しみが消える古典のことば」から、宗教裁判で異端と判決され、火炙りの刑にされたジョルダーノ・ブルーノの「私を裁くあなた達が、真理の前に恐怖に震えている」という言葉の意味を紹介する。
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ローマの話は今回で2回目です。ローマ教皇庁のあるバチカンと、古代ローマの遺跡フォーラムのほぼ中間にカンポ・ディ・フィオーリ(花の広場)があります。バチカンから歩いて10数分ですが、ここにバチカンを睨む形でジョルダーノ・ブルーノの銅像が立っています。
ブルーノは、バチカンからカンポ・ディ・フィオーリまで歩くほぼ中間にあるサンタンジェロ城の牢獄に7年間投獄された後、宗教裁判で異端と判決され、1600年にカンポ・ディ・フィオーリで火炙りの刑に処せられました。処刑の執行官に対して「私を裁くあなた達が、真理の前に恐怖に震えている」と言ったことが伝えられています。
ブルーノはコペルニクスに続いて近代科学に通じる宇宙論を提唱した人として有名ですが、ブルーノもコペルニクスも科学者ではなくウマニスタです。ルネッサンスのウマニスタはギリシャ・ローマの古典を研究した人々で、これが現代語のヒューマニズム(人文学)という言葉のもとになりました。
ブルーノの著作『無限、宇宙と諸世界について』等に書かれている内容は、ガリレオが行なったような実験や観察の結果ではなく、アリストテレスの批判などからなる、近代科学が捨ててしまった思弁です。ブルーノはカトリックのドミニコ会修道士でしたが、カトリックとプロテスタントのどちらにもつかず、さらにグローバルな立場から両者を批判しました。