──円谷さんが世界と闘う日本マラソンの伝統の始まりだと。
「僕はそう思ってるよ。性格も本当に真面目でね。努力の塊。僕は1歳上だけど、誰にも偉ぶらない。ああいう人が生きていて、後進の指導をしてくれていたら、日本ももう少しましになっていたんじゃないかな」
小出は日本の伝統を受け継ぐほぼ唯一人の指導者と言っていい。円谷だけでなく、昭和30年代から現在に至るまでの強いランナーの練習法は「全て頭に入っている」という。
──今の日本に欠けているものは。
「練習量をこなせない、指導者もやらせられない。ただ、そこにはね、ジュニアの促成栽培の問題もあるの。中学、高校の指導者が勝ちたいがために、選手に鉄や栄養剤の注射を打たせてる。貧血の治療範囲を超えて。努力で強くなってるわけじゃないんだ。そういう選手をしっかりした食事を摂らせてまともに走らせるのに、3年かかるよ」(文中敬称略)
【PROFILE】こいでよしお/1939年、千葉県生まれ。順天堂大学体育学部卒業。卒業後は23年間、市立船橋高などで教鞭をとり、全国高校駅伝にチームを導く。1988年より実業団で指導。有森裕子、高橋尚子などメダリストを輩出した。2002年に佐倉アスリート倶楽部設立。
●聞き手/高川武将(ルポライター )
※SAPIO2016年9月号