味と共に、市場競争で勝てる低コストの食材でなければいけない。そこで他にも多数の魚を検証してみた。
「ドジョウ、マス、フナ、ブラックバス、ブルーギル……20種類以上を片っぱしから獲っては蒲焼きにしました。中にはまずくて食べられないものもありましたね。その上でやっぱりナマズだ、との結論にたどり着いたんです」
しかし、全国からナマズを取り寄せて蒲焼きにしてみると、ショックを受けた。
「おかしい。泥臭くて食べられないんです。果たしてナマズは最適なのか? 琵琶湖のナマズはたしかにうまかった。しかし、他のナマズはまずくて食べられない。理由は何なのか。そしてやっと気付きました。ナマズの味は水とエサによって大きく左右されるのではないか、と」
泥臭くなくウナギのように脂の乗った「蒲焼き」向きのナマズを育てるのは、実は容易なことではない。水質・温度、エサの配合といった細かな技術が必要です、と有路氏。
「300種類の中から7種類までエサを絞り込んでいきました。弾力感を出すために甲殻類の割合を多くするといった配合方法も解明し、まず厚めの肉を作った上で脂を乗せていく手法を編み出しました。エサの配合、与えるタイミングも含めた独自の養殖技術を確立していくためには、時間がかかりました」
エサの配合が決まったのは2015年2月。研究開始から6年の歳月が流れていた。 ウナギ味のナマズ生産が現実味を帯びてきた。卸値も大きく下げることができた。
では、味はどうなのか? 本当に、鰻重に並ぶ満足度を消費者に提供できるのか? 試食を開始すると、69%が「また食べたい」と回答。上々の評判を受け、有路氏自らも出資して養鰻業者と共に日本なまず生産株式会社を設立、量産化へと踏み出した。マーケティングや水産加工・流通等を手がける(株)食縁も起業し有路氏は社長に就任。営業で各地を駆け回った。