「完治が疑わしい状態で治療を続けることは、延命治療と変わりありません。一度、延命治療を始めてしまうと止めることは難しくなる。将来的に食事が取れなくなると胃ろうを作り、首や鼻にもチューブを差し込んで強制的に栄養が注入される状態に陥る可能性が高い。意識が朦朧とする中、ただ生きながらえている、という状況。
本人が延命治療を望んでいない場合でも、この時点で家族はチューブを抜けない。“自分が殺してしまった”と思いたくないからです」
多額の治療費を払い、治療に手を尽くした患者の家族ほど、後に引けなくなる。その結果、本人は望まぬ治療を受け続け、家族は疲弊していく。
「後悔しない死に方」を自分で選ぶにはどうしたらいいのか。江別すずらん病院認知症疾患医療センター長の宮本礼子氏が言う。
「私は『リビング・ウィル』という、終末期にどのような医療を望んでいるかを家族に伝え、書き残す行為を推奨しています。現状、日本ではリビング・ウィルは法的な効力がないため、全ての医師が尊重してくれるとは限りません。今のうちから自分が望む死を尊重し、終末期の医療について相談できるかかりつけ医を見つけておくことが良いと思います」
そうすれば、仮に大病院に転院した場合でも、そのかかりつけ医を介してリビング・ウィルに沿った治療が受けられる。
リビング・ウィルとは生きる意思のこと。「どのように死ぬか」を考えることは「どのように生きるか」を考えることでもあるのだ。
※週刊ポスト2016年8月19・26日号