自分や家族が、ひょっとしたら「うつ」かもしれないと心配している人は少なくない。それは取り越し苦労ではなく、実際に「うつ」患者は増加している。厚生労働省によると、うつ病を含む「気分〔感情〕障害」の患者数は1990年代には年間40万人ほどで横ばいだったのが、2000年代になってからは増加傾向が続いている。最新の調査では111万6千人にものぼる(「平成26年患者調査」調べ)。
ケガや風邪などと違い、「うつ」は病気になりましたと言いづらい。そのため、どんな状態が「うつ」なのか体験が共有されづらく、「診断されたが自分は『うつ』ではないかもしれない」「処方された薬を飲み続けると、悪化するかもしれない」「何年かかってもよくならないのではないか」など、根拠が不確かな噂に振り回されやすい。どうすれば、正しい診断と治療を選べるのか。新宿ストレスクリニックの渡邊真也統括院長に聞いた。
「これまで『うつ』は、カウンセラーや医師と話をする問診のみで診断されてきましたが、最近は光トポグラフィー検査が加わりました。問診にはどうしても医師の主観が入りますが、検査は波形になって結果が出ます。客観的なデータとして確かめることができるので、患者さんにとっても診断結果を受け入れやすくなったと思います。『うつ』かもと心配になったら、いろいろな検査をしてくれるところで受診されることをおすすめします」
脳が何かを考えるとき、必ず血流が変化する。その変化の様子を、近赤外線を用いて約30分かけ測定するのが光トポグラフィー検査だ。波形のグラフは健常者、うつ病、双極性障害、統合失調症でそれぞれ典型的なパターンを示す。問診だけではわからなかった違いをカバーし、診断の精度を上げる検査法となっている。より正確な診断を求めるならば、問診と検査、二つを行うのがよりよい選択肢だといえるだろう。
そして「うつ」だと診断されたのちの治療も、検査と同様に選択肢が広がっている。これまでのうつ病治療といえば、抗うつ剤や睡眠導入剤を処方され、定期的にカウンセリングを受けながら生活するのが一般的だった。近年では、検査方法と同じく脳の機能に着目した新しい治療法「TMS(経頭蓋磁気刺激)治療」が加わった。