「先生、腹腔鏡手術は本当に安全なんですか」、「私、手術を受けない方がいいんじゃないですか」。医療現場で患者による、こんな戸惑いの声が増えている。関東中央病院の光学医療診療科部長の渡邉一宏さんが言う。
「“手術は危ない”と治療に対する不信感をあおる記事から、最近、医師と患者の関係がギクシャクしています。お互いに良好な関係を築けなくなっているのです」
医療不信の発端となったのは、『週刊現代』が報じた一連の医療特集だ。「手術を断ってよかった」(8月6日号)「妻に受けさせてはいけない手術」(7月2日号)など、過激なタイトルでさまざまな危険性を指摘し、「受けてはいけない」と多くの手術を真っ向から否定した。大阪医科大学附属病院がんセンター特務教授の奥田準二さんが指摘する。
「手術を選ぶか、それ以外の治療を選ぶかは、患者さんの病状や希望などで異なります。最も大事なのは、どのように治療していくのが最適かを見抜くこと。患者さんは突然の告知でパニックになりやすいので、医師は最適な治療方針を判断し、理解しやすく説明する必要があります」
医療現場が混乱しては、結局、患者の不幸を招くばかりだ。本誌は、「受けていい手術」と「いけない手術」について専門医に聞いた。
数ある手術のなかでも特に“危ない”と指摘されているのが、がんの腹腔鏡手術だ。これは、腹部に数か所小さな穴を開けて内視鏡カメラなどを挿入し、モニターを見ながら行う手術で、従来の開腹手術より傷が小さく、患者の負担が少ないとされる。
しかし、2010~2014年に群馬大学医学部附属病院で腹腔鏡手術を受けた患者8人が相次いで亡くなっていたことが発覚、その安全性に大きな疑問が生じた。はたして腹腔鏡手術は安全なのか。消化器内視鏡学会評議員である前出の渡邉さんは、胃がん治療のリスクについてこう語る。
「進行した胃がんの場合は腹腔鏡か開腹による手術を行います。開腹手術は入り込んだ腫瘍なども目で確認できる。腹腔鏡手術は出血が少なく術後の回復が早く、残る傷も小さいという利点がありますが、手術中に予想外に腫瘍以外を傷つけるというリスクがあります。
早期胃がんの内視鏡治療や進行胃がんの腹腔鏡手術はとても難しく、医師の経験値による差が大きいので、胃がんのステージが上がるほど、腹腔鏡手術より開腹手術の方が選択されることが多いのです。ただ、どのような治療を受けてもリスクの可能性はあるので、患者さんにとってベストな選択をすることが重要です」(渡邉さん)
進行が早くて転移しやすく、日本人のがん死亡原因1位である肺がんではどうか。以前は胸を大きく切り開く「開胸手術」が主流だったが、現在は「胸腔鏡」といわれる内視鏡を用いた手術も行われる。その手順は腹腔鏡手術と同様だ。産業医科大学第二外科の田中文啓さんが解説する。