日本人の「国民病」とされ、多くの人が悩む腰痛と神経痛。腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症になると、腰椎のなかにある、神経の通り道である脊柱管が狭められ、神経組織が圧迫されて腰痛や足の痛み、痺れが生じる。
治療法として「手術」もひとつの選択肢であることは間違いない。ただし、症状が出たからといって、「即手術」をすべきではないと語るのは、平和病院横浜脊椎脊髄病センター長の田村睦弘さんだ。
「腰痛や神経痛の手術は『タイミング』が重要です。急激な麻痺や排尿障害があれば即手術が必要になる場合がありますが、通常は薬物治療やコルセット、神経への注射などの治療をします。効果がなく頑固な痛みが3か月から半年以上続いたら、その段階で初めて手術の検討を始めます」(田村さん)
日常生活で耐え難い痛みや痺れが長期間続き、運動療法やコルセットなどの保存治療に改善効果がなかったり、症状は比較的軽くても仕事や趣味を行えない──それが手術を行うタイミングとなる。
「足が痛くて3分間もしくは30m歩けなくなったら私は手術を勧めています。手術はヘルニアや骨を削って神経の通り道を広くする『除圧術』と、脊椎のずれや不安定性を矯正する『固定術』があり、最近は内視鏡や小切開手術など、体の負担が少ない手術も増えています。
脊椎や脊髄は専門性の高い領域ですが、専門医の手術なら安心できる。“失敗して車イスになるのでは”と過度に怖がる必要はありません。最近は“ヘルニアを切らずに治す”という書籍も出版されていますが、神経の圧迫はタイミングが遅すぎると治らないこともある。“切らずに治す”ことは原則ですが、治療の選択肢としての手術を否定すべきではありません」(田村さん)
ただし、腰痛の手術で知っておくべきなのは、「完全には治らない」ことだ。
「手術さえすればすべての症状が改善すると考えがちですが、実は100%の回復は難しい。背骨の手術は神経そのものを治すのではなく、神経機能の回復をサポートする手術です。神経の回復具合は人によって異なり、9割治る人もいれば、3割という人もいます。私の経験では約7割の症状が改善します」(田村さん)
では、迷わず手術を受けていいのだろうか。田村さんは、手術を急ぐ医師や保険外治療にも警鐘を鳴らす。