名投手には数々の「決め球」があり、それを投げられてはバットが空を切るしかないといった「魔球」もある。数ある球種の中でも「決め球」のイメージが強いのがフォークボールだ。その「元祖」と呼ばれるのは杉下茂氏(中日ほか、1949~1961年、通算215勝)だが、「フォークを投げるのはあまり好きじゃなかった」という。
「絶体絶命で1点でも取られると負け、という場面で初めて投げるボールだった。僕は巨人の川上(哲治)さんと対戦するのが何より楽しみだったんですが、究極の目標は川上さん相手にストレートで3球三振を取ることだった。ところが、ストレートだけだと何度やっても弾き返される(苦笑)。
それで天知俊一監督に“フォークを投げろ”と命令されたんです。優勝した1954年だけは、川上さんにフォークを投げて1割台に抑え込みました。僕のフォークは、川上さん専用のボール」
その杉下氏にフォークの歴代ナンバーワンを聞くと、「日本の球界で“本物のフォーク”を投げていたのは村田兆治(ロッテ、1968~1990年、通算215勝)、野茂英雄(近鉄→ドジャースほか、1990~2008年、日米通算201勝)と佐々木主浩(横浜→マリナーズほか、1990~2005年、日米通算381セーブ)の3人だけ」だという。
「本物のフォークはボールが全く回転しない。すると左右に揺れながら最後はストンと落ちる球になるから、打者にとってより捉えづらいボールになる。今の投手が投げているのはほとんどが握りの浅いスプリットフィンガー・ファストボールといわれるもので、完全な無回転ではないんです」