都会の雑踏の中で無表情でたたずむ女性、ひたすらコピーを取り続ける女性、会議終了後に全員のコーヒーカップを片づける女性、職場の椅子に座って不安気にお腹をさする妊婦――女性たちに笑顔はなく、一様に疲れきっている。そしてメッセージが流れる。
《この国は、女性にとって発展途上国だ。限られたチャンス、立ちはだかるアンフェア。かつての常識はただのしがらみになっている。それが私には不自由だ》
これは化粧品会社『ポーラ』が、店舗販売員のリクルート用に制作したCMのキャッチコピーで、その後全国放送となった。現在CMは放送終了となったが、YouTubeにアップされたこの動画は、毎日再生回数が増えている。
CMを制作したポーラは女性社員が約6割で、女性管理職も多い。2児の母でもあるポーラ宣伝部の担当者は「CMに出てくるような女性は、会社にはいない」と言うが、ではなぜあのCMを作ったのか。
「広く周りを見渡すと、“本当の意味で女性が活躍できる社会になっているのだろうか”という疑問が生じました。女性が自分らしく働ける世界、足枷のない世界がある。ポーラではそういう働き方ができると伝えたかったので、ああいう鋭い切り口のCMになっています」
この言葉にザワついたのは一般社会で働く女性だけではない。参議院議員の蓮舫氏(48才)は、「“日本の女性の今”を表している」と指摘する。
「あのCMには女性の息苦しさが全部出ている。共鳴とか共感じゃなくて、“あ、わかる。この酸素不足の感じ”と思います。私はあんまり息苦しいとか思うキャラクターでも立場でもありませんが、ものすごく“今だよね”と感じます」(蓮舫氏)
東京都知事選では小池百合子氏(64才)の対抗馬といわれながら、「私の“ガラスの天井”は国政にある」と言って不出馬。早速、民進党の代表選に名乗りを上げた蓮舫氏だが、自身の置かれている状況については、「ガラスの天井どころか、床もガラスです。安全バーもなくて、ストンと落ちるから、不安は常に感じている」とも言う。
“ガラスの天井”とは、もともとヒラリー・クリントン氏(68)が使った言葉で、資質や成果があるのに、女性が昇進できない“目に見えない壁”のことだ。東京都知事の小池氏も、何度もこの言葉に触れている。
男性社会の政界では、いくらキャリアを積んでも、性差が常につきまとうのだ。
「例えば、同じ大臣でも男性と女性で扱いが違う。男性は“大臣、こちらへ”と呼ばれても、女性は “あっ、○○ちゃん”と呼ばれる。いまだにちゃんづけされるうれしさってないよね(苦笑)」(蓮舫氏)
本誌で防衛大臣(当時、自民党政調会長)の稲田朋美氏(57才)と対談した衆議院議員の山尾志桜里氏(42才)も、政調会長になって気づいたのは、理屈を積み上げて相手を追及しても「かみついた」となるということを明かしていた。これに稲田氏も同意し、「それがエキセントリックなイメージで伝えられる」と続けた。
日本の女性議員の数は、他のOECD加盟国と比べて最低レベルだ。衆議院の女性議員は475人中44人で1割に満たず、実はこの数字、奇しくも70年前に初めて女性に参政権が与えられた時とほとんど変わらない。
蓮舫氏がテレビに出始めたのは25年ほど前。その頃も今も、変わらず女性の地位は低いと指摘する。