8月15日午後5時半過ぎ。1日の利用者が約11万人にものぼる東京・青山一丁目駅は、お盆真っただ中ということもあってか人がまばら。渋谷に向かう銀座線のホームで電車を待っていたのは15人ほどだった。その中に、盲導犬を連れた男性がいた。男性は右手に盲導犬のハーネス(胴輪)を持ち、なぜかホーム側に盲導犬を連れて、自身は線路沿いを歩いていた。
このとき、ホームにいた整備員は、徐々に線路に近づく男性を見て、あわてて「白線の内側にお下がりください」との構内放送を行った。しかし男性は放送の甲斐なくそのまま線路に転落。ホームには盲導犬が残されていた。整備員はすぐに、ホームに迫ってくる電車を止めるため、非常停止ボタンを押した。
ところが、それも間に合わなかった。亡くなった男性は品田直人さん(享年55)。この日が彼の55回目の誕生日だった。盲導犬のワッフルは助かった。
事故から10日。本誌・女性セブン記者は現場を訪れた。それまで意識したことはなかったが、改めて気づくことが多かった。
銀座線は1927年、浅草-上野間で運行された日本で最初の地下鉄で、青山一丁目駅が開業したのは今から78年前の1938年。ホームの幅は狭く、天井も低い。だからなのか、電車の音がこもってしまい、ホームに電車が進入するときの音は、他の駅よりもすさまじく大きく感じた。またニュースでもさかんに指摘されていた、点字ブロックが柱と重なっている点に関して、改めて確認してみると、柱の端から線路までは、1m20cm。両手が充分に伸ばせないほど幅が狭い。電車が進入している時に、白線の内側にあるこの点字ブロック上にいると、轟音とともにものすごい風圧を受け、恐怖を感じた。
社会福祉法人『日本盲人会連合』の組織部長・藤井貢さん(63才)は外出の際は白杖を手にしているが、「地下鉄はすごく威圧感、圧迫感があり、恐怖だ」と言う。
「特に青山一丁目駅の反響音はすごい。自分側のホームに電車が入ったのか、反対側に入ったのかよくわからないこともあるほど」(藤井さん)
この事故を受け、さまざまな議論が飛び出しているが、取材を重ねる中で見えてきた問題は、まったく違うところにあった。
ワッフルを育成貸与した北海道盲導犬協会の訓練所長・和田孝文さんは、「今回の一件で、盲導犬や目の不自由なかたのことを皆さんがまだまだ正しく理解されていなくて、とても残念に思った」と言う。
盲導犬と聞くと、私たちはついついスーパードッグがいる視覚障害者は安全が確保されているように思ってしまう。