ビジネス

無制限残業の温床「36協定」見直し 労働者はラクになるのか

残業時間の削減で生活苦に陥る労働者も(写真:アフロ)

 安倍首相を議長に、関係閣僚や有識者を交えて9月にも発足するとみられる「働き方改革実現会議」──。そこで議題に上ることになったのが、“36(サブロク)協定”の見直しだ。

 36協定とは、使用者(会社)と労働者の代表(労働組合)が協定を締結しさえすれば、「1か月45時間」という厚生労働相の告示で定められている残業時間の上限を超えて、実質無制限に働かせることができる労働基準法の“抜け道”のことである。これを見直し、残業の上限時間を厳格に定めることで、ブラック企業など社会問題となっている長時間労働を是正しようというのだ。

 一見、労働者にやさしい改革といえるが、残業時間の規制強化によって新たな弊害も招きかねない。『2016年 残業代がゼロになる』などの著書がある人事ジャーナリストの溝上憲文氏に、残業時間をめぐる素朴な疑問や今後起こり得る懸念事項を聞いた。

 * * *
──そもそも、なぜ「無制限残業」が可能な36協定がまかり通ってきたのか。

溝上:労働基準法では、労働時間は「1日8時間、週40時間」と定め、それを超えて働かせると「使用者は懲役6か月以下、罰金30万円以下の罰金」が科される規定があります。いわば法律で許される労働時間ギリギリのラインです。

 しかし実態は労基法36条に基づく労使協定(36協定)を結べば、労働者を無制限に働かせることができる。したがって実態はザル法になっています。

 その原因は、1947年の法律制定当初、長時間残業は時間外割増手当による賃金規制で抑制ができると考えていたからです。当時の労組の組織率は今と違って高く、労組が安易に協定で妥協しないことを想定していたのでしょう。戦後間もない頃でもあり、いたずらに規制を強化すれば、日本の戦後復興が進まないと経済界・政府は考えたのです。

 しかし、結果的に長時間労働が蔓延、労基法の規定は機能不全に陥っているのが現状です。

──2014年に『しんぶん赤旗』が日本経団連や経済同友会加盟の企業40社に調査した結果では、1か月に延長できる残業時間を「過労死ライン」の80時間以上とする協定を結んでいた企業は8割近くの31社に及んだ。NTT150時間、東レ100時間など、名だたる大手企業も長時間労働を許容していたことが明るみになった。36協定の見直しで、こうした大手企業の勤務形態は変わるのか。

溝上:すでに大企業は「朝勤務」「ノー残業デー」など残業の抑制に動いており、45時間になれば、その動きを強化することになるでしょう。生産年齢人口の減少、女性労働力の確保などの観点から、長時間残業は人材確保の障害となりつつあることを自覚するようにはなっています。

関連キーワード

トピックス

永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン