夏競馬が終わり、中山と阪神に競馬が戻ってくる。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、放牧明けの馬が多い時期、休養明けのパドックで注目すべきポイントを解説する。
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秋競馬といっても、まだ残暑も厳しく、オープン馬は天皇賞、エリザベス女王杯、JCなど目標とするレースによって、時期をずらして入厩してきます。夏の名残りの中でじんわりと始まるといったところでしょうか。
放牧明けの馬が多い時期ですが、大事なのは休み明けの所作。休み前に頑張れば頑張ったほど、休み明けがキーポイントになります。
調教で絞りあげて競馬で強く走ることを「丸めて弾ける」と表現します。強い馬ほどそれを繰り返す。筋肉の収縮度合いが強まり、大きく跳べるようになる。しかし長期休養に入ると筋肉が緩んでしまい、休み明けに「丸められる」ことに大きなストレスを感じやすい。伸びた筋肉が丸まることを拒否する。調教が難しくなるんですね。
もちろん放牧は馬体を休ませるためにあり、メンタル面でのリフレッシュ効果も無視できない。強い馬ほどその兼ね合いが難しい。放牧は諸刃の剣です。
まだ開業して数年しかたっていない2004年2月に新馬勝ちしたインセンティブガイは、昇級戦でも好走、ニュージーランドTに格上挑戦(12着)させた効果もあって4歳1月にはオープン入り、降級後の夏には関屋記念で3着と実力の片鱗を見せてくれました。その後は人気になりながら勝ちきれませんでしたが、5歳1月に再度オープン入りし、続く東京新聞杯で3着、東風S1着、5月には京王杯SCで2着とようやく本格化したようでした。
その勢いで6月の安田記念に挑戦、11番人気ながら6着と好走、さあ秋はGIだと期待が高まりました。
しかし放牧を経た秋の京成杯オータムハンデでは、1番人気に推されたものの14着(!)。休み明けの調教で、うまく丸まらなかった。その後は雌伏の時期が長く続きます。
骨格がしっかりとしていてバランスに歪みがない。調教のやり甲斐があり、丈夫でよく走る馬でしたが、これ以後27戦、勝利には恵まれませんでした。強い相手とばかり走ったこともありますが、放牧後の調教の難しさを痛感しました。