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「在宅死」の割合 医療充実度で大きな地域格差を生む

「いい顔になったねぇ。体重は5kg減ったけど、顔の張りやツヤがとてもいい」。そう語りかける医師に、ベッドに座る富樫恵子さん(仮名・71才)が笑顔で答える。

「おかげさまでこの頃は痛みもなく、お見舞いに来る友達は、『どこが悪いのかわからない。入院中と全然違うよ』『本当にがん?』と驚きます」

 医師が続けて「死にたいと思わなくなった?」と、問いかける。富樫さんはゆっくり答える。

「思いません。今は、少しでも主人と一緒にいたいと思っています」

 そんなやりとりを傍らにいる富樫さんの夫(78才)は、ニコニコと見つめている。

 富樫さんは、岐阜市内の自宅で在宅医療を受けている末期のがん患者だ。8年前に皮膚がんを発症し、その後、がんが全身に転移したため、入院して治療を続けていた。すでに肝臓を3分の1切除し、がん性の疼痛もあった。

 この夏、入院先の病院から「栄養失調で余命わずか」と宣告され、緩和病棟に入るよう勧められたが、富樫さんは「一日でも住み慣れた自宅にいたい」と断った。

 その後、岐阜市にある小笠原内科が在宅医療を行っていると知り、同院の相談外来(無料)に夫が訪れた。夫から話を聞いた同院の小笠原文雄院長は、あっという間に受け入れ態勢を整え、相談からわずか3時間後に富樫さんを病院から「緊急退院」させた。

 それから1か月、冒頭のように、富樫さんの状態は余命宣告が嘘のように良好だ。富樫さんが笑いながら言う。

「主人には内緒にしていましたが、入院中は“死んだ方が楽やな”と思っていました。でも、家に帰ってからはまったくそう思わない。自宅で主人と過ごせる今が、本当に幸せです」

 そんな富樫さんを微笑ましく見つめる主治医の小笠原さんは日本在宅ホスピス協会会長で、これまでおよそ1000人の患者を在宅で看取ってきた在宅医療の第一人者だ。これまで往診した末期がん患者は、95%が最期まで自宅で過ごした。僧侶でもある小笠原さんが自らの哲学を語る。

「生老病死の世の中、人間は必ず死ぬものだ。在宅緩和ケアで“安らか”“大らか”は当たり前、さらに“朗らか”に生かされ、最期は在宅ホスピスで“清らか”に旅立つ、旅立ちたい。これが小笠原内科の在宅緩和ケアの理念です。それは病院では得られないから、ぼくは患者を“緊急退院”させます。人生の最期を自宅で過ごすから、患者は満面の笑顔になれるんです」

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