他臓器に転移したり、再発して抗がん剤や放射線治療が効かなくなったがんに対しては、決定的な治療法がない。こうした難治性がんに対する新しい治療として実施されているのがカテーテルを用いた血管内治療だ。
抗がん剤は、がんが正常細胞よりも増殖スピードが速いという点に着目し、速く増殖する細胞を攻撃することで治療効果をあげる。これに対し、血管内治療は、がん周囲に産生した細い無数の新生血管に着目して開発された。従来とは全くアプローチの方法が違う、新しいがんの治療法だ。
Clinica E.T.(横浜市都筑区)の奥野哲治院長に話を聞いた。
「がん細胞の周囲には、細い新生血管が無数に生じます。無秩序に生じた動脈は静脈と結合し、ますます血液が集まるようになります。そのため、がん組織では血液が滞り、低酸素になります。この低酸素が、がんの源である幹細胞の増殖の引き金になります。ですから、がん細胞そのものではなく、周囲にある血管を減らすことによって組織に酸素がいきわたり、がんの幹細胞の増殖が静止するのではないか、と考えたのが血管内治療の出発点です」
抗がん剤や放射線が効かなくなったがん細胞は、遺伝子変化を起こしていることが多い。がん細胞から抗がん剤を排出するMDR1という、がん遺伝子が増えていたり、酸素が少なくても細胞が活きられる低細胞誘導因子HIF-1αが増えるなどパワーアップしている。そこで血管内治療では、多くの薬剤を組み合わせ、薬剤をナノサイズにして新生血管の大元に放出する。注入された薬が新生血管から漏れ出て血管を消滅させる。