今季25年ぶりのリーグ優勝を果たした広島のスカウト部門を束ねる苑田聡彦(71)。カープ優勝の立役者となった黒田博樹のほか、金本知憲、江藤智、大竹寛など多くの名選手のスカウトに成功してきた。
苑田は統括部長の立場となった現在も生活拠点は東京に置き、会議のたびに広島に赴いている。気になる選手を「必ず自分の目で確かめる」ためだ。
現在のスカウティングの現場は、「セイバーメトリクス」(※)に代表されるような数字、データを駆使して選手を評価するのが主流である。だが苑田はその流れに真っ向から抗い続けている。
【※注:野球を統計学的に分析し、その指標によって選手を評価する指標。メジャーではオークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMが導入し、弱小だったチームを強豪に成長させたことで知られる】
例えば2006年、米国人のマーティ・ブラウンがカープの監督に就任した際、球団の至る所にメジャー流が導入され、スカウトにも膨大な量のデータが渡されたが、苑田はその資料にまったく目を通さなかった。
「数字はアテにならないことが多い。代表的なのは野手でよく話題にされる高校通算本塁打数。公式戦が行なわれるような規格の球場で強豪校としか練習試合をしなかった、桑田(真澄)&清原(和博)のKKコンビがいたころのPL学園ならまだ参考になったが、今は両翼70メートルしかないような狭いグラウンドで週に4~5試合もして、本数が増えているだけの選手もいる。数字を全否定するわけではないが、比較しても仕方ないのもわかるでしょう?」
そんな「徹底した現場主義」の苑田が、よく口にする言葉がある。「今の若いスカウトは、制約が多くてかわいそうだ」──。