いま、外食業界では消費者の節約志向の高まりを背景に、低価格メニューを売りにした店に人気が集まるデフレ回帰現象が起きている。そんな中、ブーム再来とばかりに熱い戦いが繰り広げられているのが「均一価格居酒屋」だ。
均一居酒屋のトップをひた走るのは、主力の焼き鳥から釜飯などのサイドメニュー、アルコール類まですべて280円均一(税抜き)で提供する「鳥貴族」。2016年7月期の決算は前期比31.3%増の245億円を叩き出し、営業利益も過去最高の15.9億円を記録した。
今年8月には千葉県柏市の直営店「南柏店」で、チューハイに誤って手の消毒などに使うアルコール製剤を入れる事故を起こしたが、消費者への素早い謝罪や再発防止策の徹底で、顧客を大幅に減らす大事には至らなかった模様だ。
だが、南柏ではまるで鳥貴族の失態を見計らったかのように、9月16日に全品280円を謡うやきとり店「豊後高田どり酒場」が派手にオープンした。同店を運営するのは、「白木屋」「魚民」「笑笑」などの業態を持つ大手居酒屋チェーンのモンテローザである。
高田どり酒場のメニューを見ると、価格だけではなくメニュー構成まで鳥貴族と瓜二つ。看板メニューに「BIG串」や「とり釜飯」、生ビールやウイスキーなどを揃えている。おまけに看板の配色も、鳥貴族と同じ黄色と赤を基調にするなど対抗意識をむき出しにしている。
こうした仁義なき均一居酒屋戦争は今に始まったことではない。2008年のリーマンショク不況を契機に、「金の蔵Jr」(三光マーケティングフーズ)、「うまいもん酒場 えこひいき」(コロワイド)、「仰天酒場 わっしょい2」(和民)など、300円以内の均一価格メニューを掲げる居酒屋が続出した。もちろんモンテローザも「268円厨房 うちくる」で参戦していた。
街中に「○○円均一」の看板が躍っていた時代を記憶している人も多いだろうが、結果的に価格戦争に勝ち残ったのは鳥貴族だけだった。なぜ、鳥貴族は並み居る大手居酒屋チェーンを蹴散らすことができたのか。外食ジャーナリストの中村芳平氏がいう。
「鳥貴族は徹底的に品質を追求した看板商品と原価率の低い漬物などのメニューをうまくミックスさせて一定の利益を稼ぐビジネスモデルを早くから構築していました。また、雑居ビルの地下や上層階といった二流、三流立地への出店で家賃負担を抑える戦略を貫いてきた。
一方、大手居酒屋チェーンの均一業態は、とにかく駅前の目立つところに出店する代わりに、ブラジルやベトナムなどから冷凍焼き鳥など原価の安い食材を仕入れて利益を上げようとしていました。初めから“安かろう悪かろう”で鳥貴族に敵うわけがなかったのです」