映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、笑福亭鶴瓶の言葉から、演技の引き出しについて語った言葉をお届けする。
* * *
現在公開中の映画『後妻業の女』は、大竹しのぶ扮するヒロインが独身で金持ちの老人を誘惑しては後妻に収まり、その後で殺害──を繰り返していくというブラックコメディだ。
本作で笑福亭鶴瓶は大竹の標的となる成金男を演じている。鶴瓶の設定は「物凄い巨根の持ち主」で、大竹とのベッドシーンではその設定を活かしたコミカルな芝居が展開されている。
「今までしのぶさんと一緒に芝居をしたことがないんですよ。しのぶさんが芝居をやっている現場を見たこともないんです。だから、ちょっと見たかったから、というのがあります。ラジオで語れることがたくさんありそうじゃないですか。
実際に絡んで思ったのは、芝居は物凄いんですが、凄い照れ屋でもあることですね。だから、現場でシャイな心を緩和させてあげようかなと思いました。
キスも一回しかしませんでしたから。よその人とは思い切りしておいて、僕とはせえへん。普段、仲がええから、自分の地に戻るんでしょうね。僕はそんなの思うてへんから、なんぼでもガーっといこうと思ったら、『あかん』みたいな感じだったの。それが逆に面白かったですね。その距離感が良かったから、シーツの中で絡むシーンでしのぶちゃんに『こういう時に大阪弁で言うには何て言葉がいちばんいい?』と聞かれて『あかん』と言うたんです。
そしたらシーツの中で『あかん』『あかん』言うてるんですが、それがエクスタシーに達しているのか、抵抗して止めているのか分からん状態なんですよ。あの人、あのへんが上手いわ」
鶴瓶は、ありとあらゆる人間の感情をリアルな説得力をもって演じてきた。その演技の引き出しはどのようにして作っているのだろうか。