未曾有の天災に見舞われた北海道の農業はいまどうなっているのか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏がリポートする。
* * *
今年の8月、4つの台風が北海道を襲った。なかでも、国内屈指の農業王国である十勝エリアには3つの台風が直撃。十勝総合振興局の試算では管内の被害総額は573億円に達したという。しかも、この額には国や市町村の管理下にある、土砂崩れで崩落した道路や、川の氾濫で流された橋、JRの線路被害といった類のものは含まれていない。
民間企業のダメージも露わになってきた。9月上旬、十勝に生産拠点を置くカルビーはポテトチップスの発売延期を決定。中旬になってキユーピーも「アヲハタ」ブランドのトウモロコシや大豆を使った缶詰・袋詰商品14品目の製造休止を発表した。
そんな9月中旬、十勝を訪れる機会を得た。何軒かの畑作農家や畜産農家を巡り、話を聞いたが、東京で聞く以上に十勝の被害は甚大だった。そもそも話を聞く前から、目の前には水田でもないのに、水が抜けていない畑が広がっていた。稲作農家の田んぼでも、この時期にはとっくに水が抜けている。水田のようにも見える畑からは、収穫前のじゃがいもが顔をのぞかせていたりもする。
本来なら十勝の9月上旬はじゃがいもの収穫期だ。ところが、未曾有の降雨でじゃがいもを収穫するポテトハーベスターのような巨大な農業機械は畑に入れなくなった。ぬかるみにはまって出てこられなくなってしまうからだ。だが水に浸かったじゃがいもを収穫しないままにしておいては、腐ってしまう。そうなる前に、少しでも収穫するべく農業ボランティアを募り、広大な畑からじゃがいもを手作業で掘り起こす農家すらあったという。