毎日の歯みがきが自分の健康を害しているかもしれない──。そう主張したのは、『週刊現代』に掲載された「気をつけろ! 60すぎたら、歯をみがいてはいけない」(2016年9月24日・10月1日号)という特集記事だ。同記事では、『歯はみがいてはいけない』(講談社刊)の著者で現役歯科医の森昭さんが、「誤った歯みがきの習慣」に警鐘を鳴らした。
記事では、多くの人が歯みがきで使う「歯みがき粉」にも異を唱えている。食後に歯みがき粉を用いて歯みがきをすると、「唾液の持つ効能が得られなくなるので逆効果」という主張だ。
唾液には、虫歯菌が作った酸で溶かされた歯の表面を元に戻す「再石灰化作用」がある。だが、唾液の効能はそれだけではなく、食べかすを洗い流す「浄化作用」や口内の細菌を除去する「殺菌作用」もある。とくに食後は食物を消化するため唾液が最も多く分泌されるが、この時に歯みがきをすると、歯みがき粉とともに唾液を「洗い流して吐き出してしまう」のだという。
これに対し、東京歯科大学組織・発生学講座准教授の見明康雄さんは、「歯みがき粉を使っても、逆効果とまではいえない」との見解だ。
「歯みがき粉に含まれる発泡剤の泡が口の中に行き渡って食べかすを浮き立たせたり、歯ブラシによって口内が刺激されて、唾液の分泌を促す作用もあります。口をゆすぐときに確かに唾液は減るでしょうが、それよりも歯みがき粉を使って口内をきれいに保ち、歯みがき粉に含まれるフッ素の効果を利用するメリットの方が大きいといえます」(見明さん)
しかし、歯みがき粉の選び方によっては危険もある。研磨剤入りの歯みがき粉は歯の着色汚れを落とす一方で、同時に歯の表層にあるエナメル質を削ってしまうこともあるからだ。宇田川歯科医院院長の宇田川義朗さんは、こう説明する。
「とくにたばこのヤニを取る歯みがき粉の研磨剤はとても荒く、必要以上に歯を削ってしまいます。強い研磨剤を使うと一時的に歯はきれいになりますが、表面がざらついているため、その後、また着色する。メーカーにより異なりますが、『ホワイトニング』や『ステイン除去』を強調する歯みがき粉は、研磨剤が強い傾向があるので注意しましょう」
歯みがき粉の必要性は、虫歯予防か、歯周病予防かという目的によって変わる。虫歯予防のケースでは、「フッ素入りの歯みがき粉が効果的」と宇田川さんが指摘する。