【この人が語るこの本】『強父論』/阿川佐和子著/文藝春秋/1300円+税
【著者】阿川佐和子(あがわ・さわこ)/1953年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。『ああ言えばこう食う』(檀ふみ氏との共著、集英社)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞。
昨年亡くなった父であり、作家である阿川弘之氏の思い出を綴った阿川佐和子氏のエッセイ『強父論』(文藝春秋)がベストセラーになっている。
タイトルが物語るように、「怖くて強い父親」のエピソードが描かれている。それによると、弘之氏は〈男尊女卑でわがままで、妻や子供には絶対服従を求める〉〈多くの時間、イライラしていて(中略)突然、火を噴く〉そうで、佐和子氏に対する口癖のひとつが〈文句があるなら出ていけ。のたれ死のうが女郎屋に行こうが、俺の知ったこっちゃない〉だった。
同じように「怖くて強い父親」石原慎太郎氏のもとで育った石原良純氏は本書をどう読んだか。ちなみに、良純氏もかつて『石原家の人びと』(新潮社)という本で慎太郎、裕次郎兄弟など石原一族の素顔を描いて評判を呼んだことがある。(インタビュー・文 鈴木洋史)
──親が作家であるだけでなく、佐和子氏も良純さんも4人きょうだいの上から2番目(阿川家の場合は兄、佐和子氏、弟、弟)で、家庭環境が似ていますね。
石原:阿川弘之さんの家の次男、つまり佐和子さんのすぐ下の弟と僕は、慶應幼稚舎時代から同級生。だから、小学校3年生の頃、阿川さん家に遊びに行ったことがある。そのとき和服姿の阿川さんが出てこられた。見た瞬間、子供心に「うわあ、ここにもうちの親父と同じ面倒くせえのがいるわ」(笑)と感じました。うちの親父に会った僕の友達も同じようなことを言いますよ。
──どういうことですか。
石原:この本を読むと、佐和子さんがその日の出来事をだらだら話し始めると「結論から言え、結論から!」と怒鳴られたとか、それで佐和子さんが泣き始めると「食事中に泣くな」とさらに怒られた。佐和子さんの誕生日に家族4人で外食して、店の外に出たとき思わず「寒い」と言っただけで「寒いとは何だ、それが飯をごちそうになった親に言うことか」と怒られたとか、いろいろなエピソードが書いてありますね。
これ全部、佐和子さんが幼稚園か小学校の頃のことだというのですが、もう完璧に目に浮かぶことばかり。僕が子供の頃にお会いした阿川さんには、そういう佇まいがあった。
作家で、超がつくほどの変人が父親をやっている家は大変なんです。うちの親父だって、みんなで一緒に住んでいた頃は「うるさい」「下らない質問をするな」「早くしろ」と怒鳴ってばかり。阿川さんは、大人の集まりに子供がチョロチョロしていると他人の子供であろうと、「静かにしろ」と怒鳴り、その親まで怒鳴りそうになると書いてありますけれど、うちの親父もまったく同じ。エピソードを言い出したらキリがないです。