【著者に訊け】雫井脩介氏/『望み』/KADOKAWA/1600円+税
まさに究極の選択である。ある日、遊びに出たまま帰らない息子の友人が遺体で発見され、現場付近では慌てて逃げる2人の少年の姿が目撃された。埼玉県、〈戸沢市〉郊外で起きた少年リンチ殺人事件である。
未だ消息不明の関係者は3名。そのうち高校1年生の息子〈規士〉は被害者なのか、それとも加害者なのか──。市内で建築事務所を営む父親〈石川一登〉と校正者の母親〈貴代美〉は、まさに2つに1つの可能性に身を引き裂かれてゆく。
父は息子の無実を、母は生存を信じる。しかしそれは、前者であれば規士の死を、後者は息子が殺人犯であることを同時に意味した。その致命的な『望み』の違いに崩壊寸前となる家族の、どちらに転んでも〈望みなき望み〉の行方を見事描き切った、雫井脩介氏、渾身の一大傑作である。
先ごろドラマ化もされた『火の粉』や、『犯人に告ぐ』『クローズド・ノート』等、圧倒的なリーダビリティや心理描写で定評のある雫井氏。その彼が「最も自分を追い込み、最も悩み抜いた作品」が、本書だという。