野球には全く興味がない。ルールさえわからない。そんな評論家の古谷経衡氏が9月11日、広島市に向かった。前日10日夜、広島東洋カープが読売巨人軍を下し史上7度目の優勝を飾ったからである。折しも米同時多発テロが世界を震撼させた「9.11」から15年目を迎えるその日、広島はカープの赤色で真っ赤に燃えていた。
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11日、昼間から広島市中心部の旧広島市民球場後でパブリック・ビューイングが開催されていた。前日に優勝したカープの選手陣は安堵の影響もあってか対巨人戦に惨敗したが、カープの赤いユニフォームを着た多くの広島市民がビール片手に集まっていた。
カープの躍進とともに、「カープ女子」という言葉が目に付くようになった。カープを応援する地元の若い女性や、そこに地縁のある女子応援団をそう呼ぶ。会場を見渡すと明らかに「カープ女子」と思しき一群に何度も遭遇したので、6組20人に突撃インタビューを敢行した。やはり「カープ女子」というだけあって、全員が地元民か、広島に地縁を持つ女性たちであった。
好きな選手を聞いたところ、1位・鈴木誠也(外野手)、2位・菊池涼介(二塁手) 、3位、新井貴浩(一塁手)、4位・大瀬良大地(投手)と相成った。野球に疎い私は1位の鈴木がどの程度「凄い」選手なのか皆目見当もつかないのだが、彼女たちのカープ愛は本物であることは確かだ。滾る地元愛に胸が熱くなった。
熱狂の広島市中心部を尻目に、私は平和公園に向かう。広島に来るたび思うことだが、この市中心部に位置する平和公園の木々の緑を見るたびに、その緑の深さ故に原爆の凄惨さが強調されているように思えて胸が苦しくなる。
人工的で洗練された公園と原爆資料館の下には、原爆投下前、中島本町という広島市有数の下町の活況があった。爆心地の同町は原爆によって消え去り、現在の公園に至っている。
折しも来月には巨匠・片渕須直監督によるアニメ映画『この世界の片隅に』(原作・こうの史代)が公開される。被爆前の中島本町がフィルムの中で再現されている作品だ。平和公園の石畳の下を掘れば、かつて人の生きた喜怒哀楽があったことを思うと、原爆の暗黒がいかに巨大であったのかをまざまざと見せつけられる。