ロンドン五輪での銀メダル獲得に続き、リオ五輪でも銅メダルを獲得した女子ウエイトリフティング48kgの三宅宏実選手(30)。今回の五輪で銅メダルを決めた試技を成功した直後、バーベルに駆け寄り、頬ずりをするシーンが印象に残っている人も多いだろう。あの姿から三宅が道具を大事にしている様子が見て取れたが、なぜあのような行動を取ったのか。彼女はアスリートを支える「道具」「モノ」「グッズ」に対しどのような思いを抱いているのか。三宅が語る。
「グッズというのは、私の練習のパートナーで、これがあるからずっとウエイトリフティングをやっていけるというほど、大切なものです。それぞれのモノには、それを作ってくれる職人さんがいたり、開発してくれる人がいたりと、大勢の人がかかわっている。そういう道具があるからこそ、私はウエイトリフティングができているんだなっていつも思っています。モノがなければ私はこの競技ができていないわけですからね。
たとえば、ウエイトリフティングにしても、重いものを毎日下に落とす……という競技を私はしているわけです。ただ、選手によっては自分のシャフト(バーベルの棒部分)を足蹴にしたりする人もいます。そういう人を見ると私自身は、少し寂しい気持ちになってしまいますね。自分の使っている道具を大切にするというのは、自分のことを大切にするのと一緒。シャフトはもちろん、自分が着用するTシャツなどのウェアひとつだって、みんな私と一緒に頑張ってきてくれているもの。仲間なんです。だから、その子たちを大切にしてあげるというのはすごく大事なことじゃないかと思っています」(三宅、以下「」内同)
こうした「モノ」への感謝がまずあったうえで、三宅が大切にしているグッズを紹介してもらった。まずは、「シャフト」についてだ。メーカーは埼玉県・八潮市に作業所を構えるウエサカティー・イー。三宅は過去、某テレビ番組で、シャフトを作る職人の工房を動画で見せてもらったことがあるという。これらは1本1本オーダーメイドで作るもので、その巧みな職人技を目の当たりにした。以後、自分の使っている道具を本当に大事にしないといけないと感じるようになった。
「工場で、4人くらいで毎日1本1本シャフトを作っているんです。機械で作るという方法もあるのでしょうが、機械だと細かいところまでいきわたらない部分もあるそうです。それを見た時に、日本の職人さんの技術はクオリティが高くて、すごいな……と感銘を受けました。そして、こういうものに自分が支えられているんだなということを改めて痛感しました。
シャフトは海外のメーカー製を使うこともありますが、日本製はやっぱり最高です。全然手触りとかが違うんですよ。握り手のところにあるざらざらした感触とか、心地よさとかが。今使っているシャフトも日本メーカーのものですが(上記工場のもの)、十数年も一緒にやっているので、心地よさが全然違います。あと、毎日使っているので、その時握った感触で、その日の調子もわかります。今日は手に吸い付くから調子がいいなとか、今日はちょっとダメだなとか」
◆企業はアスリートにいかに協力するのか
まさに道具と一心同体といった状況だが、三宅に対しては五輪選手ということもあり、多くの企業が道具を提供したり、意見を聞き、開発の参考にすることも。その中の一社、三宅が使用するシューズの製造元・アシックスの広報担当は「選手のパフォーマンスが上がるよう、サポートをしています。動作分析を行うなど選手に合った商品開発をしています。選手用の別注はさまざまなケースがありますが、三宅選手など、多くの選手の場合、市販品をベースに、選手の足型・身体特徴、競技特徴、好み等の個別の要素、要望を元に靴型、材料、一部パターンやソール構造の変更などを行っています」と語る。
選手によって足首の硬さが異なるため、三宅は自分で硬さを調節できるタイプのシューズを使用。靴底の角度がほんの0.1㎜違うだけで、大きく違いが出るのだという。また、踵が斜めになっているものと、フラットになっているタイプなどがあるなか、その微妙な違いだけでも違和感を持ってしまう。そこで三宅も同社に自分に合う靴底の硬さや角度を調整してもらっているのだとか。元々三宅は底の部分に空洞が空いているタイプを使用していたが、最近のウエイトリフティングの世界では、はフラットなタイプを使うことが増えている。そこで、同社にフラットなタイプを開発してもらったものの、最終的には時間的問題もあり履きなれず、空洞があるタイプのものに戻し、メダルを獲得した。