【書評】『心に感じて読みたい 送る言葉』齋藤孝・創英社/三省堂書店/1404円
【評者】伊藤和弘(フリーライター)
〈文章を考えるのはそれだけでエネルギーがいることなのに、最後のお別れの場で全員の前で詠み上げられるとなれば、弔辞を考える人は大変なエネルギーをその文章に注ぐ。短いなかにものすごい量のエネルギーが込められた文章??それが弔辞だ。聞く人、読む人はそのエネルギーに心を揺さぶられるのである〉
近現代に各界で活躍した著名人に送られた弔辞や追悼文を厳選し、それぞれに齋藤孝氏がていねいな解説を加えた一冊だ。
菊池寛が芥川龍之介に送った弔辞など「作家編」、山田太一が寺山修司に送った弔辞など「文化人編」、倍賞千恵子が渥美清に送った弔辞など「映画・芸能人編」、池田勇人が浅沼稲次郎に送った追悼演説など「政治家・経済人編」、王貞治が川上哲治に送った弔辞など「スポーツ選手編」に分けて、1927年から2013年に発表された計21人の弔辞(および佐藤浩市による喪主挨拶)を収録。さらに最終章「作品の中のあの人」編にはエッセイや詩などの形で書かれた追悼文が載っている。
著者もいう通り、故人に捧げる弔辞には通常のスピーチにはない力がある。生前の故人をよく知らない人が聞いても、思わず目頭が熱くなることも少なくない。それだけ気持ちが込められた言葉だからだろう。
特に本書に収録されたものは、現代史に名を残す著名人に送られたものばかり。生前の活躍を知っている人たちなので親しみやすく、それだけに胸を打たれるものが多い。
それぞれの弔辞の後に付けられた解説も実に的確だ。故人はどんな人生を送ったのか、弔辞を詠む人とはどんな関係だったのか、知られざるエピソードなど、多くの読者が知りたいと思う情報がコンパクトにまとめられている。この解説を読んだ上で、改めて弔辞を読み返せば、さらに感動が深くなるだろう。