「医療保険じゃあ、治療費しか助けてくれないじゃないの。ローンとか、子供の教育費とか、どうするの?」──。妻(渡辺直美・28才)が、子供の手をぎゅっと握りながら、病院のベッドにいる夫(西島秀俊・45才)に語りかけるアフラックのCMが、「旦那の命よりお金が大事ってこと?」と話題になっている。
しかし、渡辺の言っていることはもっともだ。治療・闘病によって仕事を辞めざるを得なくなる「がん離職」が社会問題になるなど、闘病はただちに生活に大きな影を落とす。
まずがんと診断された時、治療費にどれくらいのお金がかかるのだろう。自身もかつて乳がんを患ったファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんが解説する。
「治療にかかるお金は、がんの種類やステージによって変わりますが、調査によると、すべてのがんの平均で年間92万円となっています」
この数字は、厚労省の研究事業として、東北薬科大学の濃沼信夫教授らが行った調査によるもの。乳がんの場合は、年間66万円。そのうち高額療養費や保険の給付金などで戻って来るお金が44万円で、実質負担額は年間22万円となっている。
高額療養費とは、手術費や入院費などの合計が月に自己負担限度額(年収によって額が異なるが、たとえば、年収約370万~770万円の家庭だと8万円程度)を超えた分は、申請すれば払い戻されるという制度だ。
「たとえば年収500万円の家庭だと、月に8万円を超えた分の金額が戻ってくるわけですが、とはいえ12か月分となれば単純計算しても96万円の負担となるので大変です。ただ1年の間に3回以上高額療養費の適用を受けていると、4回目から負担の上限は4万4400円とさらに下がります。つまり、かかる金額の上限は決まっているので心配しすぎる必要はありません」(黒田さん)
しかし、考えておかなければいけないのは、治療が終わった先のことだ。最初は手術や入院など、目の前の治療のことしか考えられないが、実際はその後が長い。
2011年に乳がんが見つかり、右乳房を全摘出した生稲晃子(48才)は長かった闘病生活を振り返る。
「がんだとわかったときはショックだったけれど、手術で取ってしまえば大丈夫だろうと思っていたんです。でも、2回も再発して、長い治療となってしまいました。家事をしていても、全摘出したことによりうまく腕が上がらない時もあったし、病気のことを隠してテレビの仕事をしていたから、体調が悪い時にスタジオで笑っていることがつらい時間もありました」
退院して日常生活に戻っても、生稲のように体調がすぐれないときがある。パートの日数を減らしたら、その分収入は減ってしまう。その上治療費以外に、ウイッグの費用、通院の交通費、のみ続ける薬代、料理ができないときの外食費用など、かかる費用は数えきれない。
黒田さんは、「月1万円単位の医療費でも一般家庭で何年も続くのはかなり厳しい」と指摘する。