いま、年金受給者から「約束が違う」と全国各地で年金減額の違憲訴訟が起きている──。原告団は神奈川、金沢など、全国各地で4000人以上にのぼる。
争点となっているのは、年金の物価スライドにからむ受給額カットで、多くの年金生活者が複雑な制度改正で訳のわからないまま「年金減額」を通告され、泣き寝入りさせられている点だ。
1つは2013年から行なわれた特例水準の解消を名目にした年金引き下げ。これは10年以上前の1999年から2001年の不況期、3年連続で物価が下がったにもかかわらず、政府は高齢者向けの「景気対策」として物価変動に合わせて年金受給額を減らす物価スライド制度を凍結し、年金額を据え置いた。
それを10年以上経って「もらいすぎ年金」(特例水準)と批判、厚労省は2013年から年金生活者の受給額を2.5%(3年間)引き下げた。
もう一つの減額訴訟は2015年に初めて発動された「マクロ経済スライド」による年金引き下げ。これは物価が上昇した場合でも、年金の引き上げ幅を物価上昇率より低く抑える仕組みで、現在の受給者に対する実質的な年金減額になる。しかも、今後30年近くにわたって続く。
原告弁護団の加藤健次・弁護士は「これは詭弁だ」と喝破する。
「年金を減額するときの国の言い分は決まっています。『世代間の公平』と『公的年金制度の維持』のためです。現在の年金水準では将来世代の給付が減るから不公平になり、社会保障に回せるカネが少ないんだから制度を維持するためには減額は仕方がないと主張しています。
政府は年金制度は100年安心というが、2年先の経済見通しさえ誤っている。長く賃金が上がらず、現役世代から入るべき保険料が足りないから、場当たり的に高齢者から年金を奪っているにすぎない。
国民皆年金制度が始まった1960年代のはじめ、国の社会保障審議会は『皆年金をやる以上は、公的年金は生活保護以上の水準を目指す』と謳っていた。それが今や、『財源がないから仕方がない』と言う。国が国民の生活設計を支えることを放棄しているのだから、年金減額は世代間の公平のためでも制度の維持のためでもない」