薄暗いバーのカウンターで2人の老人がロックグラスを傾けている。竜雷太(76才)演じる老建築士に向かって、和装の男性がこう語りかけて、破顔した。「お前が老いぼれになったんじゃねぇのか?」──。
10月24日放送の月9ドラマ『カインとアベル』のラストシーン。和装の老人は、主人公・優(山田涼介)の祖父で、不動産会社会長の宗一郎を演じる平幹二朗(享年82)だ。これが名優の最後のセリフとなった。
《10月23日、高田宗一郎役の平幹二朗さんがお亡くなりになりました。心よりご冥福をお祈りいたします》
放送の冒頭では、そうメッセージが映し出された。
平は広島市出身。父親とは1才になる前に死別し、母親は平が疎開中に被爆。高校生のときに名門俳優座の門を叩いた。40代で演出家の蜷川幸雄と出会うと、舞台俳優としての地位を確固たるものにし、1998年には紫綬褒章、2005年には旭日小綬章を受章した。
今年5月に蜷川が死去した際には、蜷川の脚本から、「ぼくらはまた、近いうちに、再会する」というセリフを引用して弔辞を読んだ。それから半年も待たずの“再会”となってしまった。
「1970年に結婚した佐久間良子さん(77才)と1984年に離婚してから30年以上、独り暮らしを貫いてきました。多忙な中でも、掃除も洗濯も買い物も朝食の用意も全部1人でやっていた。朝食は和洋の2パターンを日替わりで。毎朝のストレッチも欠かさなかった。“細心の注意を払って日常生活を送ること”で、80才を超えても現役でいられたんでしょう」(平を知る関係者)
独立した生活を送っていた平の異変に気づいたのは息子で俳優の平岳大(42才)。連絡が取れなくなったことを心配して23日に自宅を訪れたところ、風呂場で倒れているのを発見したという。
「壮絶な芝居をする名優でしたが、プライベートでもいろいろな話題を振りまきました」と言うのは芸能リポーターの石川敏男さんだ。佐久間との離婚会見では、「互いに仕事中心の生活になってしまった」というものの、子供がいてもなお別れを選んだ理由がはっきりしなかった。