住宅街に子供たちの無垢な笑い声が響いている。刹那、ドーンという大きな音と衝撃。足を震わせてへたり込む子供、倒れてぴくりとも動かない子供、そして横転したトラックの下へ向かって、言葉にならない悲痛な叫び声をあげ続ける母親らしき女性──。
10月28日朝、神奈川県横浜市で、集団登校する小学生の列に軽トラックがつっこむ痛ましい事故が起きた。小学生を含む7人がけがをし、1人が亡くなった。
「将来の夢は、父親の母校の横浜高校で野球をすること」
命を奪われた小学1年生の田代優くん(享年6)は、事故に遭う前日に新品のグローブを買ってもらったばかりだった。
「軽トラックを運転していた合田政市容疑者(87才)が逮捕されました。容疑者は前日朝にゴミ出しのために自宅を出てから、事故を起こすまで自宅には戻っていないそうで、逮捕時に“どこをどう走ってきたのか覚えていない”などと答えており、逮捕後の取り調べでも意思疎通が難しく支離滅裂な部分がある。認知症の検査も含め、慎重に捜査を進めています」(捜査関係者)
容疑者は2013年の免許更新時に認知機能検査を受けたが異常なし。それから3年、次の更新と検査を来月に控えての惨劇だった。
近年、交通事故の総件数は減少する一方で、65才以上の高齢ドライバーが加害者になる割合は増加している。警察庁によると、2014年に起きた交通事故のうち、65才以上によるものは全体の18.7%、実に5件に1件を占めている。
2009年からは75才以上の免許更新者を対象にした「認知機能検査」が義務付けられているが、高齢者による交通事故件数は依然、高止まりしたままだ。千葉大学名誉教授の鈴木春男氏(交通社会学)は次のように解説する。
「高齢者の交通事故は、加齢による判断能力や運動能力の低下が大きな原因。事故を未然に防ぐ対策の1つが、運転免許証の自主返納です。各地の警察では、運転に不安を感じる高齢者らに返納を促しています。