角居厩舎のGI馬、リオンディーズが引退することになった。原因は左前繋部の浅屈腱炎。症状が好転しても再発の可能性が高く、止むを得ない決断だった。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、骨折よりも厄介な馬の屈腱炎についてお届けする。
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現3歳世代屈指のポテンシャルを持つと評価をいただいていただけに、残念至極です。骨折は発症後のケアによって骨が強くなることもあるのですが、屈腱炎は克服しても発症前より良くなることはありません。ほとんどが前脚に顕れる屈腱炎は、競走馬の宿命ともいわれます。
縦の糸のような腱繊維がブチブチと切れる。束ねた細いワイヤーを激しくしならせると何本かが切れる様子に似ています。そこに出血跡が黒く出る。普段よりも倍くらい腫れ上がります。腱繊維はたんぱく質なので熱を持つと硬くなる。その状態が慢性化すると切れやすくなる。脚をどこかにぶつけた拍子に切れることもあるものの、ある激走がきっかけというよりレースや調教の疲労の積み重ねによります。
もちろんクールダウンや休養などの脚のケアには細心の注意を払うのですが、切れること自体を防ぐのは至難の業です。
最近はエコーを用いた診断で損傷の程度が把握できるようになりました。しかし最初の段階では分かりにくいものです。競馬のたびに何万本かある繊維の一本が切れる。切れた繊維は栄養と休養によって修復されますが、激走を重ねるうちに修復が追いつかなくなる。
馬は疼痛を感じます。熱を持って少し腫れる。それが修復できないと、痛みが馬の記憶に入ってしまい、痛点をかばい始めるようになって走れなくなる。強く速い馬に、屈腱炎が忍び寄る。スピードが上がるほど、ストライドが大きいほど、腱の伸び縮みがダイナミックになって切れるリスクが高まります。