専門分野のみで活躍すると思われていた企業が意外な業界に進出して成功し、話題を集めることが増えた。鉄道会社も、線路の上で列車を走らせるだけの会社ではなくなりつつある。なかでも、株式上場で話題のJR九州がすすめる新事業は豪華寝台列車や農業など、他の鉄道会社にも影響を及ぼしている。なぜ、JR九州は農業に取り組むのか、フリーライターの小川裕夫さんがリポートする。
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10月25日、国鉄分割民営化から約30年の歳月を経て、JR九州が株式上場を果たした。
JR九州よりも早く株式上場を果たしているJR東日本・東海・西日本は沿線人口も多く、鉄道事業本体や関連の不動産事業などが好調だ。3社と比べて、JR九州は沿線の人口が少なく、鉄道本体の収支はいまだに厳しい。
そうした苦境を跳ね返すべく、JR九州は鉄道ファンのみならず、世間をあっと言わせる事業展開を繰り出している。
2013(平成25)年に運行を開始した寝台列車「ななつ星in九州」は、その豪華な設備などが話題になり、現在も予約が殺到するほどの人気を呼んでいる。今般、寝台列車の衰退が顕著になっている中で、「ななつ星in九州」は”クルーズトレイン”という新しい鉄道の楽しみ方を提示した。
「ななつ星in九州」が注目を集めたことで、JR東日本とJR西日本もクルーズトレインを新造。JR九州を追随した。2017年にはJR東日本が「TRAIN SUITE 四季島」を、JR西日本が「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」の運行を開始する予定にしている。
JR九州が切り開いた新しい鉄道像は、クルーズトレインだけにとどまらない。昨今、鉄道会社は沿線開発の一環でさまざまな事業に取り組んでいるが、JR九州は2010(平成22)年から大分県大分市でニラ栽培を開始。農業に参入した。
駅ビル開発や遊園地などは沿線の活性化に寄与する。しかし、農業はそうした沿線開発とは無縁のようにも見える。どうしてJR九州は農業へと参入したのだろうか? JR九州ファームの田中渉社長は農業参入への意図を説明する。
「九州には”1割経済”という言葉があります。商業も工業も、九州の経済規模は全国の1割というのが相場です。しかし、農業は2割を占めます。いわば、農業は九州にとって基幹産業なのです。その基幹産業が衰退することは、九州全体の沈下を意味します。それは九州を地盤とするJR九州にも大きな影響を及ぼします。JRが農業を活性化することで、少しでも九州を活気づけようと考えたのです」