経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人をピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は結婚会見を開いた“野獣”こと、柔道の松本薫選手に注目。
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リオ五輪柔道女子57キロ級銅メダリストの松本薫選手が、幸せいっぱいの笑顔を見せて結婚会見を開いた。8年間交際してきたという彼は和食の料理人。鼻が高く鳥に似ていると自筆の似顔絵を、はにかみながら披露した。
さわやかで気が優しく、芯が強いという彼は、松本選手が“野獣”と言われていることに対して「納得している」という。ロンドン五輪の時につけられた野獣の愛称は、あっという間に定着したけれど、本人は反発し、一時は「もののけ姫」と呼んでほしいと主張したこともあったらしい。
「子供ができたらママでも野獣。できなければ妻でも野獣」と東京五輪を目指す覚悟を、野獣という言葉で表現した松本選手。彼女にとって、野獣は柔道家としての姿なのだろう。
手を後ろに回し、何度も軽く頭を下げながら、歩幅も狭く、ゆっくりと会見場に入ってきた松本選手。普段も決して女性らしい立ち居振る舞いとは言えないが、柔道の時とは、醸し出す雰囲気だけでなく、手の振り方や歩き方からして明らかに違う。
試合に向かっている時は、猪突猛進、戦闘モード。頭から突っ込んでいくようにおでこを前に突き出し、にらみを利かせながら、両手を大きく振り、歩幅も広く足を投げ出すように歩く。
戦闘モードでは表情も違う。眼光が鋭い上に、眉間に緊張感が表れているのだ。眉根を寄せているわけではないが、目に力が入っている分、眉間だけでなく、目と眉の間がわずかに狭くなっているように見える。これが松本選手の目付きにさらに凄みを与え、野獣という印象を強めているのだろう。
結婚会見でマイクを手にした松本選手の顔は、目と眉の間が広がり、眉間にも緊張感はない。記者からの質問に答えながら、時折、鼻の頭や鼻の下をスッと指で触るのは、照れている証拠。何らかの感情が動き「質問にどう答えたらいいのだろう?」と一瞬、戸惑った時は、気持ちを落ち着かせようとするのか、前髪に触る仕草も見られる。
明るく屈託なく開けっぴろげに笑う顔も、照れながら頬を持ち上げ、白い歯を見せて笑う顔も、なんとも自然でかわいらしい。ちょっと不思議な発言もはにかんだような笑顔で言われると、なんだか憎めない。これが柔道や試合の話しになった途端、笑顔が消え、真剣な表情を見せる。そんなギャップが、彼女の魅力でもある。
試合の1か月前になったら「女を捨てる」と、過去のインタビューで答えている松本選手は、試合に向けて自分を追い込み野獣化する。
会見でも「試合前は30センチ隙間をあけて触れない」と彼との暗黙のルールを、膝の横に手を伸ばし空間を作って示した。この身体の周囲30センチは、松本選手の「密接距離」。
これはパーソナルスペースという自分の周囲の心理的テリトリーのこと。アメリカの文化人類学者、エドワード・ホールが示したもので、相手との関係によって、どこまで自分に近づくことを許せるかという距離感のことだ。