しかし、この高江ヘリパッド問題、どうも全沖的気運には至っていない。反対の熱狂は身内だけに限局されている印象を受けた。N1ゲートへの交通手段は車と、那覇・名護方面からボランティアが運行するバスに限られているが、その中の少なくない数がレンタカーを意味するナンバー「わ」「れ」。つまり県外からの支援者である。そもそも高江集落は人口150人程度なのだから、県外支援者が多数を占めるのは必然といえよう。
だが、所謂高江問題が全県的気運に至らないのには、合理的な理由がある。今年6月19日、米軍属の男が沖縄県うるま市の女性を殺害し、同市の雑木林に遺棄した蛮行を糾弾する那覇市での県民大会には、6万人ともいえる地元県民が詰めかけた。
95年の米兵少女暴行事件、04年の沖縄国際大学ヘリ墜落事件など、在沖米軍の言い逃れのできない犯罪行為に、地元の怒りが沸騰するのは当然のことだ。しかし、こと高江に至っては、「普天間や嘉手納と違い、圧倒的に過疎地である」という点において様相を異にするのだ。
海兵隊の狼藉に当然鋭敏になる地元でも、高江に無関心のものは少なくない。私はレンタカーで高江を含む沖縄北部を走行したが、高江から最も近いコンビニまで約50km、最も近いガソリンスタンドまで30kmという土地なのである。
【PROFILE】古谷経衡/ふるやつねひら。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。主な著書に『左翼も右翼もウソばかり』『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』。最新刊は『草食系のための対米自立論』。
※SAPIO2016年12月号