最近のがん治療は入院ではなく、通院がメーン。手術のときだけ入院して、その後の治療と仕事の両立は可能だ。
背景には、日本人の死因で最も多いがんの対策のために、国、地方公共団体などの責務を明確にした「がん対策基本法」が2006年に成立したことも無関係ではない。そこには「がん患者の療養生活の質の向上」について明記されている。
しかし厚労省によれば、がんと診断された後に離職する割合は3割超。その主な理由は、“がん=死”のイメージから「もう仕事はできない」と思ったり、「仕事を続けようと思えばそうできた」ものの、周りのプレッシャーから「自ら身を引いた」などさまざまだ。
治療のため休職した後、たとえ復職したとしても、やはり離職という状況に追い込まれることも少なくない。がん患者の就労支援をしている『一般社団法人CSRプロジェクト』の藤田久子さんが言う。
「復職する場合、患者さんにはさまざまな不安や葛藤がつきまといます。まだ体力が戻らないのにちゃんと働けるのか、同僚に迷惑をかけるのではないか、周りに自分はどう受け入れられるのかって」
9年前に乳がんのステージIIIと診断された松山明日香さん(仮名、43才)は現在、就職活動中だ。
「リンパ節に転移があるということで、半年間抗がん剤治療を受けてから手術し、1年間、分子標的薬の治療を受けました。今は治療が終わり、1年に2回くらい検診に通っています」
見つかったのは、ちょうど一般事務の派遣の期間が終わって次の仕事を探していたとき。幸いにも実家暮しで、家族のサポートもあり、治療期間の1年は仕事をせず過ごした。
「面接は何度も受けましたが、“これまでに大きな病気をしたことはありますか?”と聞かれることがあって、今のことを聞かれているなら “健康です”って答えられるけど、これまでのことを聞かれたら、“がんだった”と答えなくちゃいけないのかな…って。正直に言うと選考に影響が出ると思って、嘘をついちゃうんですが、後ろめたい。入社後の健康診断でバレてしまうんじゃないかと思うと、すごく不安になりました」