1986年にはスポーツをする人(15歳以上)の割合は76.3%だったが、25年後(2011年)には61.6%に低下した。しかし、そうした国民的な「運動離れ」の中でも、高齢者層の割合は確実に増加している(60~64歳は3.2%増、65~69歳は7.8%増、70歳以上は1.1%増。総務省「統計からみたスポーツの今昔」より)。
背景には平均寿命の延びや、趣味(スポーツ)に費やす時間的・金銭的余裕が高齢者層に偏っていることが挙げられるものの、やはり最大の理由は「健康のため、長生きのために運動をしよう」という考え方の広がりにありそうだ。
「統計からみたスポーツの今昔」には、「高齢者がやっているスポーツ」のランキングがある。1位に輝いたのは「ウォーキング・軽い体操(48.2%)」だが、高齢者運動のウォーキングには誤解がある。
厚労省のHPでは疫学的な調査をもとに、〈「1日1万歩」の歩数を確保することが理想〉と奨励しているように、「多く歩くこと=健康になる」と思われがちだ。しかし、東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利・老化制御研究チーム副部長は、そうした「歩数信仰」に疑問を呈する。
「運動量が多ければ多いほど効果があると勘違いしている人は多い。むしろ大切なのは運動の質。ウォーキングであれば“中強度”の運動をすることが重要です」
中強度とは医学用語で「限界と感じる運動の半分程度の酸素消費」を指す。
「中強度を超えると運動による“体の破壊”が大きくなり、中強度を下回ると十分な“体の修復(トレーニング効果)”を期待できません。限界の運動量は人によって違うので、当然、中強度の目安も異なる。
平均的なウォーキングとしては、“歩きながら何とか会話できる程度”という目安がありますが、運動者によって歩く速さが違うことに留意する必要がある。ただし、私が見る限りでは運動の質を意識している人は少ないように思います。それでは運動しても筋力強化にならず、逆に健康を損ねる結果になりかねません」(同前)