世界中を飛び回り、取材し続けてきた国際ジャーナリストの父・落合信彦氏と、最先端の研究者として世界から注目されているメディアアーティストの息子・落合陽一氏。
29歳の若さにして筑波大学助教を務める息子は、父に勧められ、幼い頃よりニーチェからカミュ、キルケゴールまで哲学や文学、歴史の古典に親しみ育った。そして、父とは畑違いの分野で世界的な才能を発揮している。父は、常に世界の現場からリアルな人々の姿、リアルな国の姿をレポートし続け、その著作は最新刊『そして、アメリカは消える』に至るまで130冊以上に及ぶ。
この2人の目に、未来はどう映っているのか。史上初の親子対談──。
〈2人の話題は、直近に迫っていたアメリカ大統領選と、アメリカが抱える問題から始まった〉
落合信彦:この9月にアメリカで大統領選について取材してきたばかりだけど、ホームレスが増えていて、格差が拡大していた。オバマ政権の8年間で、かなり格差問題が広がったと言える。
落合陽一:僕も最近、出張でアメリカに行く機会が多いんだけど、確かに格差がものすごく広がっていると感じる。
例えばシリコンバレーがあるサンフランシスコやボストンは高学歴の勝者が集まる街になっていて、景気がいい。サンフランシスコは、安全な地区に住もうとするとワンルームの家賃が月3000ドル(約30万円)もする。1年間の生活に必要な賃金が1000万円と言われていて、普通の人には住めない。上流階級の人ばかりが集まっている。一方で、それ以外の街を見ると庶民の生活は全然よくなっていない。
信彦:もともとアメリカには中産階級が80%以上もいたんだ。それが今では、30%ほどに落ち込んでいる。
陽一:お父さんは(最新刊の)『そして、アメリカは消える』の中で、ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンの戦いを「絶望の大統領選」と言っていて、「アメリカはこの50年、劣化し続けてきた」と指摘しているよね。でも、「劣化」はアメリカに限ったことじゃない。僕は、その意味ではイギリスも劣化しているし世界中が劣化していると思う。
信彦:イギリスはEUから離脱する選択をした。それでポンドは大きく下落して、国が混乱した。アメリカはオバマが「世界の警察官」の役割を放棄して、中国やロシアが好き勝手なことを続けている。世界中が劣化して「ジャングル化」してしまったんだ。
陽一:ただ、経済的な面からは、アメリカは「劣化」していなくて成長し続けているとも言えるんじゃない?
信彦:経済と民度は違う。ウォール・ストリートはカネのことばかりを考えている。ヒラリーはウォール・ストリート向けの講演会を開いて、1回2000万円も3000万円も講演料を受け取っている。
経済は成長しているけれど、反面、カネの亡者がアメリカを支配してしまったんだ。ヒラリーやトランプだけではなくて、アメリカの政治家がみんなカネ、カネ、カネになっている。心あるアメリカ人たちは皆、トランプにもヒラリーにも投票したくないし、もう政治には期待できないと言っていた。