結核菌は酸に強い菌で、強い酸性を示す胃酸の中でも生き続けることができる。このような酸に強い菌の仲間で結核菌以外の抗酸菌の感染により起こる慢性の呼吸器疾患が、肺非結核性抗酸菌症(はいひけっかくせいこうさんきんしょう)だ。
抗酸菌は、家の水回りや土の中など身近なところにおり、日本ではマイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(頭文字をとりMACと称す)という菌による肺MAC症が多く、肺非結核性抗酸菌症の約9割を占める。
感染しても無症状のこともあり、たまたま撮影したX線画像で影が写ったり、咳や痰が3週間以上続き治らない、元気だったのに突然、痰に血が混じったなどで病院を受診し、発見されることが多い。
東京高輪病院感染症内科・MAC専門外来の岡秀昭部長に話を聞いた。
「肺MAC症の特徴は、結核と違い、人から人への感染はなく、高熱が出ることもありません。症状はゆっくり進行します。診断はCT画像と痰の中に菌がいるかどうかで検査します。しかし、痰から菌が見つかったとしても、外から混じった可能性も考えられるため、何度か痰を取り、検査をすることで確定します」
40代以上の女性で多く発症するが、どこでどのように感染するかは不明だ。近年、患者が急増し、患者数は結核を上回り、2014年には死亡者数が1300人を超えた。病気の進行は人によって異なり、無症状の場合もある。大半は10~20年かけてゆっくりと症状が進むが、中には数年で急に悪化するケースもある。
発症すると両側の肺の真ん中前方に、感染による粒状陰影(りゅうじょういんえい)というブツブツができ、気管支が拡張する。徐々に進行するため、治療の選択とタイミングが難しい。高齢者の場合は、薬の副作用を考慮して治療しないという選択もある。40~50代の場合は、体力と副作用のバランスを見ながら治療を行なう。