この人ほど球界の将来を憂えている野球人はいないかもしれない。野球評論家の宮本慎也(46)だ。
「日本の野球人口は確実に減っている。息子が少年野球をやっているし、僕自身も子供向けの野球教室を開いて子供たちと接しているのでよくわかります。引退前にも子供の野球離れを感じていましたが、辞めて指導する立場になると、かなり深刻であることを痛感させられました」
一般的なプロ野球OBが主宰する野球教室は、小学生以上に技術指導をするケースがほとんどだ。しかし宮本はそれよりも下の世代、保育園や幼稚園の園児を中心に据えている。
9月某日、品川区立浜川幼稚園で野球教室を開いた。今年の春から月に1~2回のペースで自身が住む品川区の保育園や幼稚園を回っている。「多くの子供たちに野球を知ってもらい、野球人口を増やすきっかけになれば」と区に提案し、実現したものだ。
35人の園児を前に、まずは挨拶。宮本が優しい声で問いかける。「野球って知っている人~?」との質問に、園児からは「知らな~い」と返ってきた。
「大谷(翔平)君のことは?」
「知らな~い」
「おっちゃんのことは?」
「知らな~い」
会場が笑いに包まれる。宮本は笑顔を崩さず、「じゃあ今日はおっちゃんとボール投げして遊ぼう!」と、野球教室が始まった。
ところがいざボールを投げさせてみると、驚きの光景が目の前に広がった。右足を踏み出しながら右手で投げる園児が続出したのだ。
「昔は子供の遊びは空き地での野球しかなかったので、“右手にボールを持って左足を前に出すんだよ”なんて、いわれなくてもわかったんですけどね」
宮本は寂しそうに呟く。