なぜ今、このタイミングで、北方領土という最難関の外交問題が急展開を見せているのか。話題書『総理』(幻冬舎)で権力の内側に肉薄した元TBSワシントン支局長の山口敬之氏が、安倍政権“最深部”の動きを綴る。
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「日露首脳会談から通常国会冒頭解散」という年末年始の政局情報が、夏の参院選以降の永田町を揺らし続けている。
外交と国内政局がここまではっきりと直接的な関係を持って語られることは極めて珍しい。その根源はもちろん、安倍官邸がロシア側から北方領土問題を巡ってこれまでにない手応えを感じている所にある。
最大の転機となったのが今年5月にロシアの保養地ソチで行われた日露首脳会談(※注1)だ。
【※注1/第一次政権を含めると、このソチ会談で安倍・プーチン両首脳の会談は14回に及ぶ。安倍首相はプーチン大統領のことを「ウラジーミル」とファーストネームで呼ぶ。一方の安倍・オバマ会談は、今年5月の伊勢志摩サミットで8回目となる。】
クリミア併合を巡って対露強硬路線を明確にしていたアメリカのオバマ大統領からは、日本のリーダーの訪露に強い難色が示されたが、あくまでソチでの首脳会談実現にこだわったのは安倍本人だった。
5月6日、紆余曲折を経て実現した首脳会談の席上で、プーチンが大きな声を出した。
「この資料を作ったのは誰だ?」
参加者は、日本側が作成した資料に目を通していたプーチンの顔色が明らかに変わっていたと証言する。それは日本側が提案した8項目の経済協力パッケージ(※注2)だ。その内容はもちろん、大きな写真に簡単なコメントをつけた12ページの資料そのものに惹きつけられているように見えたという。
【※注2/(1)健康寿命の伸長(2)快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り(3)中小企業交流・協力の抜本的拡大(4)エネルギー(5)ロシアの産業多様化・生産性向上(6)極東の産業振興・輸出基地化(7)先端技術協力(8)人的交流の抜本的拡大。】