映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、40年以上にわたり活躍する時代劇スターのひとり、松平健が、池波正太郎作品に対する思いを語った言葉からお届けする。
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松平健は『鬼平犯科帳スペシャル 盗賊婚礼』(2011年、フジテレビ)、『鬼平外伝 正月四日の客』(2012年、時代劇専門チャンネル)と、池波正太郎原作時代劇への出演が続いている。そして、新作『池波正太郎時代劇スペシャル 顔』(時代劇専門チャンネル)も、池波原作だ。
「60を過ぎて歳を重ねていくと、主役の話ってなかなか来ません。どうしても若い人が主役になる。立ち位置をどう変えていくかは、ずっと考えています。
これまでは感情むきだしの時代劇をやってきました。ただ、若い頃は無理といいますか、冒険ができたんですが、年齢も60歳が近くなって、だんだんと《静の芝居》もいいかな、と思うようになっていたんです。
そういう時に『盗賊婚礼』のお話をいただきました。池波先生の原作は心の芝居が多いですよね。『鬼平』は、昔から観てきまして、『銭形平次』とか、ああいう派手な時代劇とは違って、落ち着いた大人の時代劇と思っていました。こういう時代劇に、ようやく年齢が合うようになってきたんですかね」
『顔』では、表では剣術指南を生業にしながら絵を趣味とし、裏では殺し屋という、二面性のある役柄を演じている。
「今の僕には、池波先生の世界が凄くいい。ですから、池波原作ならなんでもやろうと思っています。裏社会を描いた作品が多いですが、そこでの心の葛藤がある。それこそまさに僕の求める《静の世界》と言えます。
『顔』で意識したのは、裏の社会での顔と家庭での顔の違いをはっきりさせることですね。
それから、今回は伏線がたくさん張られています。絵の世界に入るきっかけとなった先生との過去の話、趣味の絵で知り合いになった仏具屋の御主人との交流、それが最終的にある悲劇になっていく。過去の部分と現在の部分は大きく分かれているので演じやすかったですが、現在の部分で、ある真相を知ってからの気持ちが変化していく芝居を演じるのが難しかったです。
芝居は、現場に行ってから決めます。相手の芝居を見ないと分からないですから。自分で『こうだ』と作ると対応できません」